病院の停電千葉県に甚大な被害をもたらした台風15号。災害時の大停電によって生命の危機に晒されるケースもある(写真はイメージです) Photo:PIXTA

台風15号の教訓
「電気は生命線」

 9月9日、台風15号が関東に上陸してから、間もなく1ヵ月となる。甚大な被害を受けた千葉県で、最大の問題は停電だった。9月下旬にはおおむね電力供給が復旧したが、まだ復旧していない地域が若干残っている。

 長引く停電は、電力が文字通りの“生命線”となっていることを思い知らせた。台風一過の直後、最高気温が30℃を超える日が続き、9月12日までに熱中症によって60代男性、80代女性、90代女性の3名が死亡した。

 人工呼吸器を使用している重度障害者にとって、長期間の停電が意味するものは、さらに深刻なはずだ。神経難病・ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者は、停電が生命の危険に最も直結しやすいはずだ。ALSを発症すると、進行につれて全身の筋肉が自分の意志で動かせなくなり、最後には呼吸ができなくなる。

 日本には、電動の人工呼吸器を装着し、30年以上の長期にわたって生存し、社会的活動を続けている患者が少なくない。参議院議員の舩後靖彦氏(れいわ新選組)のように、国政の場で活躍する患者もいる。けれども、電気が止まれば呼吸はできなくなるはずだ。

 幸い、今回の台風15号では、停電による人工呼吸器使用者の健康被害は把握されていない。驚くべきことである。そこで、患者・患者家族・患者遺族などで構成される、一般社団法人・日本ALS協会の副会長で患者遺族の金澤公明さんに、災害時の支援体制についてお話を聞かせていただいた。

 金澤さんによると、停電時の備えに対する関心が高まったのは、1995年、阪神淡路大震災のときだったという。停電で人工呼吸器が使用できなくなり、文字通り「呼吸ができない」状態に陥った患者のために、家族が交代で1日半、手動型の呼吸器(アンビューバッグ)を動かし続けた。このとき「人口呼吸器の電源や、手動型呼吸器の備えが必要だ」と認識されたという。

 その後も、日本は復旧までに時間のかかる大規模停電を、何度も経験した。2004年には、新潟県中越地震があった。そして2011年3月11日、東日本大震災が日本を襲った。