「ALSは病気が進行しますから、呼吸器をつけずに亡くなるか、つけて長期療養するか、あるいは呼吸器をつけていても亡くなる方もいて……。療養の継続期間が、それほど長くないのです」(金澤さん)

 人工呼吸器は、装着すれば「呼吸はできるから良し」というわけではない。15分間放置されると、痰が詰まって呼吸ができなくなる。介助者がいて痰の吸引をすれば、呼吸は問題なく続けられるのだが、それでも呼吸にまつわるリスクは高い。肺炎など、呼吸に関連した疾患で亡くなることも多い。

 一方で、新しい患者は常に発生する。日本での発生率は、10万人あたり2~6人である。多くはないが、「珍しい」とは言えない発生率だ。しかし、数年のうちに亡くなる患者も多い。このことは、せっかく蓄積されてきたノウハウが、必要とする患者に伝わらない可能性につながる。

「実際の停電対策の整備が現実に追いつかない、周知してもなかなか定着しない。そういう課題があります」(金澤さん)

生き延びるために
必要な“余裕”がある

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 災害対策基本法に位置づけられた難病患者の支援計画は、具体的にどこまで進んでいるのか、心もとないところだ。自治体の姿勢にも、大きく左右される。

 停電によって影響を受けるのは、人工呼吸器だけではない。照明が使えなくなると、痰の吸引などのケアもできない。電動ベッドのモーターも動かないため、患者の姿勢を変えたり寝返りを打たせたりすることも、人手で行う必要がある。エアコンが使えない場合、高温や寒冷による影響もあり得る。

 金沢さんは、経験を踏まえて、予備バッテリーや発電機に加えて「電気を使わない方法」が重要だという。手動の呼吸器や足踏み式の吸引器があれば、停電が直ちに生命の機器に直結するわけではない。しかし、それらを動かすためには人手が必要だ。とはいえ、ムダや余裕を削りに削ってきた結果、ヒューマンリソースの余裕が日本では全国的に失われている。

 いざというときに生き延びるためには、必要なムダや余剰というものがありそうだ。低所得層や生活保護で暮らす人々を含めて、余裕を持って豊かに生きられる社会は、災害対策としても望ましい将来像なのかもしれない。

(フリーランス・ライター みわよしこ)