企業が学生に求める
「主体性」とは?

 さて、今また新たな問題が起こっている。「“主体性”とはなんぞや」問題である。

 もともとは経団連が各企業に対して実施した、産業界が学生に期待する資質、能力などについてのアンケート結果で、主体性がナンバー1になったことが発端だ(参考:「高等教育に関するアンケート」主要結果)

 さらには、文部科学省も大学教育に主体性を求めるようになり(大学入学者選抜改革推進委託事業の趣旨のなかで入学者選抜の際に重視すべき項目として「(3)主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」が挙げられている)、大学関係者は、“入り口”においても“出口”においても、主体性を意識しなければならない状態なのだ。しかし、この「主体性」はコミュニケーション能力に負けず劣らず意味に多様性があり、難物である。

 大辞林 第三版の解説によると、主体性とは「自分の意志・判断によって、みずから責任をもって行動する態度や性質。 『 ― をもって行動する』」とあるが、一般的には3つくらいの意味で使われているようだ。

 1つ目は、「他人に言われなくても、自ら進んで行動する」という意味である。現在、会社には「指示待ち族」があふれている。これに対して、自らの意志でどんどん業務を進める、そして拡大解釈すれば、まわりにも働きかける積極性がほしいということだ。率先し、「自主的」にやるというニュアンスだ。

 2つ目は、「自分の意志や価値観に基づいて判断する」態度のことである。1つ目が行為に重点が置かれているのに対して、こちらは認識や判断に重点が置かれている。何をやるか、どのように判断するかを「自分で決める」という意味である。「独自性」や「自己責任」に近い。

 3つ目は、「自分ごととして遂行する、完遂する」である。「当事者意識」というのが近いだろうか。任された仕事だから仕方なくやるのではなく、自分の人生にとって重要なことであるかのごとく、深く思考、努力し、実行していくということである。「どんな仕事であっても任された以上、“主体性”をもって完遂することこそが、わが社の社員にとって重要である」などというように使われる。

 このように主体性は、いろいろな意味を持っており、そのどれもがポジティブで重要なものである。ゆえに、「どんな人材が欲しいか」と問われたときに、この言葉が選択肢にあれば、誰もが選んでしまうというのもわからなくはない。