米国では、来年の大統領選挙での民主党の指名候補を選ぶ予備選挙で、エリザベス・ウォーレン上院議員が主役に躍り出た。資産課税や金融規制の強化、さらには巨大ハイテク企業の解体など、ウォーレン議員の提案にはビジネス界にとって気がかりな内容が目白押しだ。しかし、ビジネス界の反応は、必ずしも批判一辺倒ではない。「まさか」の可能性が出てきたウォーレン政権の誕生と、どう向き合うべきなのか。「頭の体操」が始まった。(みずほ総合研究所 調査本部 欧米調査部長 安井明彦)
交代した予備選挙の主役
ウォーレン氏快進撃の背景
ジョン・F・ケネディ大統領の当選を確実にしたとされる伝説のテレビ討論会を例に引くまでもなく、ときに映像は残酷だ。10月15日に12人の民主党候補者によって行われた第4回のテレビ討論会は、予備選挙の主役交代を鮮烈に印象づけた。
これまで支持率で首位を走ってきたジョー・バイデン元副大統領に代わり、新たに主役の座に躍り出たのは、エリザベス・ウォーレン上院議員である。司会者から最初の質問を受けたのはウォーレン氏であり、討論会を通じて最も長い時間にわたって発言の機会を得たのもウォーレン氏だった。
何よりも印象的だったのが、持論である医療保険制度改革の財源を巡り、ウォーレン氏が他の候補から集中砲火を浴びた場面である。指名候補の座を争う候補者にとって、今や追いかけるべき標的はウォーレン氏であり、主役であるウォーレン氏に論戦を挑んでこそ注目を集められる。主役ならではの洗礼を受けたウォーレン氏とは対照的に、しばしば過去の討論会で批判の標的となってきたバイデン氏は、わき役に甘んじたままだった。
混戦とされてきた民主党の予備選挙で、ウォーレン氏は着実に支持を伸ばしてきた。ウォーレン氏の支持率は、秋口に同じリベラル派の雄であるバーニー・サンダース上院議員を抜き去ったのみならず、最近ではバイデン氏すら上回る調査結果が出始めた。選挙資金でも、ウォーレン氏は2019年第3四半期に約2500万ドルの献金を集めており、約1600万ドルの献金にとどまったバイデン氏を大きく上回った。
ウォーレン氏に対する世論の評価は、急速に変わりつつある。トランプ大統領に勝てる候補としての評価が高まり、ウォーレン政権の誕生が現実味を帯びて考えられるようになってきた。民主党支持者のあいだでは、「トランプ大統領に勝てる候補は誰か」という観点で、バイデン氏が支持を集めてきた。しかし、キニピアック大学が10月14日に実施した世論調査では、依然として約半数がバイデン氏を「勝てる候補」に選んでいるものの、ウォーレン氏を「勝てる候補」に選ぶ回答者が2割を超え、1割にも満たなかった8月の調査から大きく増加している。