オスが子育てに参加
一夫多妻でも多夫多妻でも一夫一妻でも、メスは子育てをする。しかし、オスが子育てをするかどうかは、場合による。つまり、一夫一妻的な社会が成立したときに、その役割が大きく変わるのは、メスではなくてオスである可能性が高い。そのため、ここではオスに注目してみよう。
四足歩行をしている類人猿の集団を考える。その集団の中のあるオスに突然変異が起きて、直立二足歩行をするようになった。
直立二足歩行をするオスは、両手を使って、子どもに食物を運ぶことができる。すると、その子どもは、食物を運んできてもらえない子どもよりも生き残る確率が高くなる。
ここまでは、多夫多妻でも一夫多妻でも一夫一妻でも、話は同じである。しかし、この先が違ってくる。まず、一夫多妻の場合は、オスが積極的に子育てに参加することは考えにくい。子どもがたくさんいるので、子育てはメスに任せることになるからだ。そこで、一夫多妻は除外して、多夫多妻と一夫一妻を比較してみよう。
多夫多妻的な社会の場合、どの子が自分の子なのかわからない。したがって、直立二足歩行によって食物を運んで生存率を高くした子どもが、自分の子どもの場合もあるし、他人の子どもの場合もある。つまり直立二足歩行をする場合もあるし、しない場合もある。
そのため、直立二足歩行は増えていかない。
しかも、親のレベルで考えると、直立二足歩行をしない方が得だ。食物を子どもに運ぶために、余分に探し回るのは危険である。肉食獣に食べられる確率だって高くなる。それなら直立二足歩行なんかしない方がよい。食物を子どもに運ばないオスの方が生存率が高くなるからだ。したがって、多夫多妻的な社会では、直立二足歩行は進化しないはずである。
では一夫一妻的な社会の場合は、どうだろうか。この場合は、ペアになったメスが産んだ子は、ほぼ自分の子と考えてよい。したがって、直立二足歩行によって食物を運んで生存率を高くしてあげた子は、たいてい自分の子だ。自分の子には直立二足歩行が遺伝する。
だから、直立二足歩行をする個体は増えていく。
どうやら、一夫一妻的な社会が成立すれば、直立二足歩行が進化しそうである。でも、最後に一つ、忘れてはいけないことがある。直立二足歩行には移動速度が遅いという欠点がある。利点があっても、その欠点を上回らなくては、利点は進化しない。果たして、そんなに利点は大きいのだろうか。