進化で重要なのは子どもの数
自然選択説によれば、有利な特徴を持った個体は増えていく、つまり有利な特徴は進化すると考えられる。
たとえば、サバンナにすむチーターは、走るのが速い方が有利だろう。だから、走るのが速いという特徴が進化したのだろう。でもそれは、走るのが速いことが直接進化に結びついたわけではない。
走るのが速いために、残せる子どもの数が増えたので、その結果、走るのが速いという特徴が進化したのである。要するに、子どもの数を増やす特徴だけが、自然選択で進化するのである。
どんなに素晴らしい特徴でも、子どもの数を増やさない特徴は、自然選択で進化しない。
たとえば、難しい計算ができるという特徴が、進化するかどうかは微妙である。難しい計算ができるのはよいことのような気がする。でも、それって子どもの数と関係があるだろうか。もし無ければ、自然選択では進化しないのだ。
そう考えると、「両手が空くので食料が運べる」という特徴は、かなり進化しやすい特徴であることがわかる。なぜなら、子どもの数に直結するからだ。子どもの数を直接的に増やす特徴には、自然選択が強力に作用する。つまり、一夫一妻的な社会では、直立二足歩行に自然選択が強力に作用する。その結果、直立二足歩行の欠点を利点が上回り、地球の歴史上初めて、直立二足歩行をする生物が進化したのだろう。
犬歯が小さくなった理由として「約700万年前に人類は一夫一妻的な社会を作った」という仮説が立てられた。この仮説を検証するため、これが直立二足歩行の進化も説明できるかどうかが検討された。その結果、この仮説によって、直立二足歩行の進化も説明できることがわかった。したがって、この仮説は少し良い仮説になった。
正直にいって、それほど強い仮説ではない。しかし、現時点では、これが最良の仮説と考えられる。約700万年前に人類は一夫一妻的な社会を作りつつ、直立二足歩行と小さな犬歯を進化させたのだろう。人類は平和な生物なのだ。
(本原稿は『若い読者に贈る美しい生物学講義』からの抜粋です)