世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。
その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、なんと大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ=ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか?
直木賞作家・作詞家のなかにし礼氏が激賞、脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が「100年残る王道の1冊」「2019年で一番の本」という『哲学と宗教全史』が、2400円+税という高額本にもかかわらず7万部を突破した。「日経新聞」「日経MJ」「朝日新聞」「読売新聞」にも大きく掲載。“HONZ”『致知』『週刊朝日』『サンデー毎日』「読売新聞」でも書評が掲載され、大きな話題となっている。
今回も2019年11月23日に桜美林大学で開催された「ビッグヒストリーとリベラルアーツシンポジウム~『究極のリベラルアーツ』がアジアを繋ぐ~」と題したシンポジウムの出口氏の講演会ダイジェストをお送りしよう。
これまで日本では、日本史、世界史、また世界史は西洋史、東洋史と分けて教えられてきました。
でも僕自身は、
世界史も日本史も東洋史も西洋史もない
とずっと考えてきました。
地球の歴史でいえば、紀元2世紀頃に地球は少し寒くなります。
寒くなったら、ユーラシアの北方に住んでいる遊牧民は南下を始めます。
彼らはたくさんの羊やロバを連れています。
南下を続けると、天山山脈に、もっとわかりやすくいうと、ヒマラヤ山脈にぶつかります。
歴史を西洋・東洋に分けても無意味
立命館アジア太平洋大学(APU)学長
1948年、三重県美杉村生まれ。京都大学法学部を卒業後、1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年4月、生命保険業免許取得に伴いライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2012年、上場。社長、会長を10年務めた後、2018年より現職。訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊超。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。おもな著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『仕事に効く教養としての「世界史」I・II』(祥伝社)、『全世界史(上)(下)』『「働き方」の教科書』(以上、新潮社)、『人生を面白くする 本物の教養』(幻冬舎新書)、『人類5000年史I・II』(ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇、中世篇』(文藝春秋)など多数。
そこで、問題です。
みなさんが羊や馬を連れてヒマラヤ山脈にぶつかったとします。
この中で、ヒマラヤを越えたいと思う人がいたら手を上げてください。
(シーン)
嫌ですよね。
では、羊や馬や家族を連れてヒマラヤを越えられないとしたら、どうしますか?
たぶんその場で東西に分かれると思います。
俺は東のほうへ行く。いや、俺は西のほうが豊かな草があると思うから西へ行くと。
では互いに幸運を祈る、「See you!」ですよね。
我々は東に行った人々を、五胡十六国、西に行った人たちをゲルマン民族の大移動と習ったわけです。
最近の学説では、「ゲルマン民族はいなかった」という説が有力になってきていますので、僕の本では「諸部族の移動」という表現にしていますが、両者はまったく同じものなのです。
まったく同じことを
「西洋史」と「東洋史」で分けて学んでも、
少しも物事の本質を理解することには
ならない。
もっといえば、現代の文明は、産業革命とネーション・ステート(国民国家)という、人類の2大イノベーションの上に成り立っています。
それ以前は、国境すらなかったわけですから、国単位で歴史を学ぶことは、人類の歴史では極めて新しいことなのです。