入社直後の「暗黒時代」

 私は1989年のバブル最終局面にメガバンクに就職し、約17年間勤務しました。そこで最初に感じた違和感は「親しいお客様に、無理を承知でお願いして、営業目標の達成に協力してもらう」ことです。これにより営業成績が良い者が人事評価やボーナスの面で有利になり、出世しやすくなるのです。

 今ならば「パワハラ」になる事例もありました。例えばこんなことです。「融資先を重点的に営業活動し、購入依頼をする」。お金を貸す強い立場の銀行が、弱い立場のお客様に、金融商品の販売を強力に押し進めるのです。

 次に感じた違和感はノルマです。

 私はノルマが大嫌いでした。ノルマはいろいろな分野で、まんべんなく達成することが必要でした。クレジットカード、自動積立定期預金、公共料金の引き落としなどの新規獲得件数、預金や貸出の増加金額などでした。
お客様にしてみれば、「そんなもの、要らない」というところに「そこを何とか……」とお願いに行くのです。

 自己犠牲を伴う「自爆営業」もありました。勤め先とは違う銀行系列のクレジットカードを自分で何枚も作ったのです。相手側も同様で、自己犠牲でカード枚数を増やす、バーター取引(同じ枚数作成の交換条件)もありました。

 3つ目の違和感は成績が一番、お客様は二の次という体質です。

 プロである銀行員が、わからない素人を結果的にダマすような営業手法を行う者もいたのです。そして成績が良いことで評価される。営業成績が良い者が出世し、お客様のためを思うような「甘っちょろい」人間は成績が上がらないので評価されない。

 私もひどいパワハラを受けた時期がありました。「仕事をするな」と言われ閑職に追いやられる。上司や年少者から「ダメな奴」とレッテルを貼られる、無視されるといった仕打ちも経験しました。今でも思い出すと悔しくて憂鬱になります。この時の同僚のひとりはノイローゼ気味になってしまいました。

 しかし、私は決意したのです。「お客様のためにならない、自分で納得しないモノはお客様には勧めない」「お客様に役立つ担当者を目指す」と。