フランスへの「対抗心」がアメリカのワイン産業を支えている!?
渡辺氏の講演に続いては、脳科学者・中野信子氏も壇に上がり、渡辺氏と中野氏による熱い「ワイン対談」が繰り広げられた。その模様をダイジェストでお届けする。
中野信子氏(以下、中野) 私はかつて、ワインの本場・フランスで研究に従事していました。日本の研究施設でランチタイムにワインを飲むことはまずありませんが(笑)、フランスでは飲むんです。やはり体質の違いもあるのでしょうが、日本人なら午後の仕事が心配になるくらいの量かもしれません。「ああ、この国では本当に、お酒をお水のように飲むんだ」と衝撃を受けました。渡辺さんもフランスに留学されていたんですよね?
渡辺順子氏(以下、渡辺) はい。フランスにいたときは本当に、人々にとってワインは毎日の生活と切っても切れない存在なんだと実感しました。ワインとはまったく関係のない仕事をしている人でもワインの知識が豊富で、毎日ワインを飲んでいる。「ワインが文化として根付いている」というのはこういうことなんだなと感じました。
中野 先ほどの講演では、渡辺さんはアメリカでゴールドマンサックス社の若手社員にワイン教育を行っていたという話がありました。フランスではワインが「文化」として根付いているが、アメリカではそうでもない。なんとかフランスに追いつきたい――。ゴールドマンサックス社が若手社員にワイン教育を受けさせた意図は、そのあたりにあるのでしょうか?
渡辺 まさにそこですね。若手社員に対して「ヨーロッパの人たちとも対等に話ができるようにしたい」「ビジネスディナーの席でも堂々とワインを頼んで、堂々とワインの話ができるようにしたい」という希望がゴールドマンサックス社にはありました。
中野 フランスは国策として、「自分たちの文化の中心はワインだ」と自国内外に力強くアピールしている。彼らにとってワインはただの「飲み物」ではない。文化の中心にある存在としてワインに誇りを持っているし、またワインは文化をつくるマーケティングツールでもあるとも認識している。そのフランスに対し、アメリカも「ワインで覇権を握りたい」という対抗心を持っているのかもしれませんね。
渡辺 そうですね。その対抗心が原動力となり、ナパ・バレーのワインがどんどんつくられたという事情もあるようです。アメリカのビジネスパーソンに「リタイア後、どんな生活を送りたいか」とインタビューしたとき、「ワイナリーのオーナーになりたい」と語る人が多くいました。「フランスに追いつけ、追い越せ」で、ナパ・バレーにはたくさん投資も入り、フランスワインよりも高い値のつくワインもつくられるようになりました。やはりアメリカは常に「ナンバー1」でいたい国ですからね。ワインでも「ナンバー1」を目指しているのかもしれません。