子どもを歴史好きにするなら、まずは「家族の歴史」から

――歴史の研究者といっても、興味の持ち方、深め方はそれぞれ違うのですね。
先生方は子ども達にどうやって興味のキッカケを作ればいいとお考えですか?

本村:子どもを歴史好きにさせようと大人は苦労するわけだけど、大人になると勝手に歴史に興味がわいてくる人も多いと思う。僕の知り合いで、30代のときには「本村先生、悪いけど、私、歴史にはぜんぜん興味がありません」とスパッと言っていた人がいるんだけど、60歳くらいでまた会ったら「私、最近、歴史がおもしろくてしょうがない」って言うわけ。

本郷:それはまた、すごい変化ですね。

本村:うん、でもこれって、けっこうよくあることだと思っていて。その理由のひとつは、年をとると自分の中に歴史ができるからなんじゃないかな。人間って30代くらいまでは、わりと似たような人生を送るでしょ。だけどそこから先は人によっていろんな境遇を体験する。

本郷:そうか。自分の中に歴史ができてくると、なんとなく「俺のルーツは何なんだろうな」とか興味がわいてくる。それでだんだん歴史が好きになるわけですね。

本村:そうそう。

本郷:それでいうと、僕らが歴史研究者としてこれから考えなくちゃいけないのは、これから先もずっとその興味を再生産できるかってことですね。今までは確かに、年をとると歴史に興味を持つ人が多かった。でも、これから先もずっとそうなるかはわからない。僕ら歴史研究者は、これからの世代に向けて、歴史が面白いよってことを伝えていかないといけないんだろうなと。そういう志を持って一生懸命やっています。それこそ『やばい日本史』をきっかけに、子どもたちが歴史好きになってくれたらいいな、という思いもある。

本村:なるほど。

本郷:ただ、なかなかそれを受け止めてもらえないときもあって、歴史芸人になってしまうわけです(笑)。

本村:いや「歴史芸人」大事だよ。僕はそこらへん、わりと楽観的だけどね。大人は何だかんだ、やっぱり歴史が好きになっていくと思う。じゃあ最初の子どもを歴史好きにっていう話に戻ると、ひとつの方法として「祖父母と話をさせる」というのはあると思います。

本郷:ほう。

本村:僕が東京大学の駒場キャンパスで教えていたころ、基礎演習という科目を受け持っていた。そこで1年生の夏休みの宿題に「祖父母の話を聞いてきましょう」という課題を出したんです。当時の大学生の祖父母って、戦争を体験した人がほとんどだったから。

本郷:それはいろいろな話が聞けそうですね。

本村:そうなんです。同じ戦争でも、それを大都会で体験するのと、地方で体験するのは全然違う。たとえば北海道なんかだと、結構農作物が取れたらしいので、あんまり実感がないんです、戦争の。でも一方で、大都会では大変なことになっている。そういうリアルな歴史みたいなものに触れると、学生たちもどんどん調べ始めるんですよ。

本郷:なるほど、歴史が自分ごとになるわけですね。大人が歴史に興味を持つのと同じプロセスだ。

本村:僕がこの方法を思いついたのは、ローマ人がヒントです。ローマ人っていうのは、子どものころから歴史に興味があったんですよ。

本郷:へえ、なんででしょう?

本村:親が歴史を語るからです。ローマ人というのは、ここでは富裕な貴族の話だけれども、家にいっぱい彫像が置いてあります。それを話のマクラにして「このお祖父さんはどんなことをやっていた」「そのまたお祖父さんは……」と、物語るわけです。だから彼らが最初に触れる歴史は、政治史とか社会史とかじゃなくて、まず家の歴史なの。こうやって家庭内で歴史を継承していくのは、大事なんじゃないかと思います。

――確かに一番身近な歴史ですものね。

本村:そういうことです。今だって、祖父母くらいなら写真があるわけでしょう。実践しようと思えば、すぐできますよ。

本郷:そうそう。たとえば、僕、子ども、孫がいたとして。そこから僕の親、祖父母世代の話をしたら、もう五代になる。今の世の中だと、一代だいたい30年として、それだけで150年の歴史を語れちゃう。さらに僕には母方の祖父・祖母に、父方の祖父・祖母、と4人の祖父母がいるわけだから、かなり広がりがあるよね。

本村:僕が大学院生のころ、祖父の昔話を聞いたら面白かったんだよ、ものすごく。昭和の初めぐらいの話だけど、あのころは景気が良くて、もう毎晩芸者をあげて、三日三晩遊んでいたと言うわけ。で、「三日三晩、そんなことできるの?」って、「どうしてたの?」って聞いたら「交代で寝てた」と言うんだ。

――比喩じゃなくて、ほんとに三日三晩、遊んでいたんですね。

本村:でもそれって、要するに1929年、大恐慌があるじゃない。それが日本に及ぶ、ちょっと前なんだ。だから祖父は知らないでしゃべっているけれども、これは一応、世界史の背景におりていくと、「ああ、この時代はまだ、景気が良かったんだな」というのが具体的にわかるんだよ。

本郷:ああ、それは面白いですね。『やばい日本史』『やばい世界史』で歴史に興味を持ってくれても嬉しいし、祖父母の話をきっかけに身近に感じてくれてもいい。とにかく、自分から「知りたい」と思ってもらえたらいいと思いますね。