懸念される「人件費総額」の減少

 手当を減らすこと自体には賛成するとしても、それが全社員への再配分とならず、企業の利益を増やすだけに終わるのであれば、到底賛同しかねる。しかし、そうなっていく可能性は否定できない。

 同一労働同一賃金というと、正社員の所得を抑えて非正規労働者の所得を上げる方向の力が働くことになるが、会社側としては、前者に注力しかねないからである。

 バブルの頃までは、日本企業は従業員の共同体であり、「株主には出資額に対する一定の謝礼として配当を支払ったのち、残りは従業員に分配する」という会社が多かった。しかし、バブル崩壊後の長期低迷期にグローバル・スタンダードなどという言葉がはやり、「会社は株主の金儲けの道具だから、儲かったら社員ではなく株主に配当するのが当然だ」という考え方が広まってしまった。

 そこで企業経営者は、政府の方針を奇貨として、正社員に対して「正社員の待遇を非正規労働者に近づける、すなわち引き下げる」と宣言するわけである。

 一方で、非正規労働者の待遇が正社員並みに近いところまで上昇するというメカニズムは、働きにくい。非正規労働者の待遇は、原則として市場の需給関係を素直に反映して決まるものだからである。

 最近でこそ、労働力不足を反映して非正規労働者の時給が少しずつ上昇しているが、正社員との格差を解消するのは余りに遠い目標であると言わざるを得まい。

 結果として、正社員の諸手当が減り、正社員の給料は上がらず、正社員の年収が落ち込む一方で、非正規労働者の時給が少ししか上がらず、労働者の受け取る総所得は減ってしまう可能性が高いと憂慮される。

 給料や手当の話に加えて、年金関係でも動きがある。同一労働同一賃金を掲げるのであれば、年金制度についても正社員と非正規労働者の差を設けるべきではない、という配慮も働いているのであろうか、非正規労働者が厚生年金に加入する基準を広げる方向で政府は動いている。