孤立無援、現金の強請り、
そして土曜日の殺人事件へ

 Y氏がケースワーカーとして、H氏の不当な要求に応じずにいると、H氏は激昂して「上司を出せ」と言うことがあった。Y氏が上司に電話を回すと、上司はH氏に「Yが至らず、すみません」と答え、怒りを収めたH氏は「Yは自分が指導する」と答えた。Y氏に戻ってきた電話の向こうで、H氏は「上司もお前の非を認めている」と新たな要求を突きつけ、謝罪を求めたという。

 恐怖に押しつぶされ、疲弊し消耗したY氏は、電話の着信音が聞こえるだけでストレスを感じ、上司に報告する気力も失っていったという。報告しても、結局はH氏にまた責められるだけである。Y氏は新年度の異動希望を人事に提出し、日々の業務の苦渋について詳細に書き込んだが、希望は叶わなかった。

 さらにH氏は、Y氏の携帯電話の番号を知りたがり、「携帯番号を教えろ」「異動するまでには教えてもらう」と迫り続けていた。H氏には異動後も関わり続ける意図があったようである。

 そして2019年4月、訪問調査の折、Y氏はついに「有無を言わさず」という態度のH氏に携帯番号を知られた。その後、職場と携帯電話の両方に電話がかかってくるようになり、頻度も通話時間も増加した。

 Y氏はさらに消耗し、健康状態が悪化した。それでも、休職という選択肢は現実にならなかった。前年度、5人いたケースワーカーのうち1人が、精神的に追い詰められ、他部署に異動していたからだった。Y氏は、自分の休職が職場に及ぼす負担を考えると、休職に踏み切れなかった。4人のケースワーカーは1人で100世帯以上を担当し、Y氏の担当世帯は110世帯になっていた。事件当時は101世帯に減っていたが、厚労省が定めている標準は、都市部で80世帯である。

 さらにH氏は、Y氏を脅し、現金を要求していた。保護費ではなくY氏の私費ではあるが、10回ほどにわたってH氏に渡された現金は、合計100万円に達したという。Y氏の本来の業務は、その現金を収入認定し、H氏に返還を求めることだ。しかし筆者には、遂行できる状況だったとは思えない。