イラン報復でJXTG・出光が直面、原油供給「最悪シナリオ」対応の難しさイランではなく気候変動と戦うべきだと抗議する米国人たち。世界が脱炭素化社会に向かう中、今後の石油需要の動向が原油価格、そしてエネルギー業界の命運を左右するだろう  Photo:Spencer Platt/gettyimages

米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したことへの報復として、イランがイラクにある米軍基地を攻撃したことは、「第3次世界大戦」を予期させるほど世界に衝撃を与えた。緊張が続く中、日本の石油元売り業界は難しい対応を迫られる。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)

最悪シナリオはホルムズ海峡封鎖
中東依存を抜けられない理由

 イランがイラクの米軍基地へミサイル攻撃を実施した8日、石油元売り業界2位の出光興産本社に、海外事業や原油調達の担当者らが急遽集まった。

 緊迫する中東情勢への対応を協議し、イラン、イスラエル、サウジアラビア、エジブトの出張規制レベルを「注意喚起」から「自粛」に引き上げることを決めた。

 米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したことに対する報復として、イランがイラクの米軍基地をミサイル攻撃。8日の原油市場には動揺が走った。

 欧州の原油価格の指標である北海ブレントは一時、1バレル当たり70ドルを4カ月ぶりに突破し、米国指標のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)も一時1バレル当たり65ドルを超えた。

 その後、米国のトランプ大統領がイランへの追加の経済制裁を科す一方、武力行使には抑制的な姿勢を示したことで、原油市場は落ち着きを取り戻した。

 原油調達の9割近くを中東に依存する石油元売り業界にとってインパクトが大きかったのは、実は今回のイランによるイラク米軍基地攻撃より、昨年9月のサウジアラビア石油生産関連施設へのドローンによる攻撃だった。

 今回はあくまでイランによるイラク米軍基地への攻撃だ。米国とイランの対立が激化し、その先の“想定”リスクとしてホルムズ海峡の封鎖がある。

 それに対し、サウジアラビアでのドローン攻撃は石油施設そのものを破壊した。これにより、一時的に世界の生産量の5%の供給そのものがストップした。“想定”ではなく、供給途絶危機が現実に起きた。