百々 井上さんはいつもいい流れをつくりだしますね。僕も以前、井上さんと「もう出版不況とは言わせない。これからの出版業界を変える4つの話」と題して対談したんですが、本当に面白かった。

――この対談、勉強になりました。井上は、本当に正しいことを愚直にやり続けることが好きな人ですね。いつも刺激をもらっています。話しているだけで、なぜか、すがすがしくなる人です。

百々 すがすがしい。いいな。

――僕は井上から、小細工しない、正しいことをやる、王道を行くことを教えてもらいました。
だから、百々さんと初めて会った、2019年5月31日、百々さんから、
「寺田さん、絶対に、王道をいきましょう。これからは王道の時代ですよ」
といわれたときからずっと、「王道」という言葉が僕の脳裏を占め続けた。
「王」の「道」と書いて「王道」。
そこだけをめがけて突き進むとはどういうことなのか。
あの日、百々さんと別れた後、大阪の夜空を見上げながら、ずっと考えていた。
そして、王道を行く編集者になろうと決めた。
本質も「本」の「質」と書く。
王道・本質追求の編集者になろう。
あの夜空を見上げながら、「A5版上製、本体価格2400円」という造本・価格設計を決断しましたね。
一人では絶対にできない決断を、あの瞬間。

百々 いいものが出たときはブレない。それが大切です。

――おっしゃるとおりですね。僕が単行本をつくり始めたのが1998年。それから生涯141作目が『哲学と宗教全史』。この本で僕の編集者としてのスタンスも少し変わった気がします。百々さんのおかげです。

百々 そういっていただけると僕も嬉しいです。

――しかし、去年の今頃、我々はまったくの見知らぬ人、ストレンジャーでしたね。
今、こうして、出版を通じたご縁でお話しをしている。この仕事って、本当に不思議ですよね。

百々 僕も寺田さんのような、ある種、いい意味のヘンタイが好きですよ。
ダイヤモンド社は石田哲哉社長も昔ドラッカーを担当されていた名編集者だし、営業は井上さんを筆頭にみんな熱心。そして編集者はさらに熱い集団。会社として出版点数を絞って面白い本だけを出していこうという姿勢を感じます。とてもバランスがいいように見えますよ。

――僕も今回、編集者の中途募集サイトに座談会で登場したのですが、ありのままをしゃべりました。募集は締め切られましたが。

百々 好きなことをしゃべっていましたね(笑)。

――出口さんも百々さんも「面白ければなんでもあり」というか、本当に「面白いこと」に心底価値を置いておられる。僕も面白いことが大好きなので、これからどんどんやっていこうと思っています。
目先の目標や売上よりも、
100年、200年、いや万年単位で
ものを見る視点。出口さんと百々さんから学んだこと
です。

百々 僕も歴史が大好きなので、出口さんと話が合うんですよ。
出口さんは、過去の数万人の失敗例、成功例のサンプルをお持ちです。
僕も何百人か何千人かは持っている。その中で、細かいことにこだわって大成した人はほとんどいない(笑)。

――そうなんですね。

百々 はい。自分の思想をブレずに持っている人でないと、みんなをまとめきれない。古典から学ぶことは多いですね。

――古典といえば、百々さんと初めて会ったときに印象的だったのは、『平家物語』の存在です。『平家物語』が百々さんに与えた影響を教えていただけますか。