私たち日本人にとっては記憶に新しいと思いますが、2009年に新型インフルエンザが世界的に流行したときのことを、振り返ってみたいと思います。

 当時も現在も、新型インフルエンザの世界的流行が、私たち人類の一番近くにある最悪の「大量死」につながる脅威だと考えられています。中でも、鳥インフルエンザA型が突然変異を起こすケースが恐ろしいパンデミックにつながる可能性が高いということで、2009年以前からWHOは世界的に注意を喚起していました。

 そうした中、2009年4月にメキシコの3カ所、アメリカの2カ所で新型インフルエンザへの感染が確認されました。さらに、感染を疑われるケースが莫大な数にのぼることがわかり、4月25日にWHOは緊急委員会を開催、27日にパンデミックの警戒水準をフェーズ4へ、そして29日にはフェーズ5へ引き上げることを決定します。

 日本では5月16日、カナダからの帰国者に感染が確認され、強制入院対応が行われましたが、5月16日には兵庫や大阪に感染が拡大しました。そして感染者が世界中に拡大したことにより、WHOは6月11日に警戒の最高水準であるフェーズ6を宣言しました。

最大警戒レベルの
「フェーズ6」は必要だったか

 このフェーズ6は、新型の病気を抑え込むために設定された最高水準のプロセスであるため、私たちの社会的・経済的行動を大幅に制約する行動計画が設定されていました。そのためフェーズ6を発動するにはWHOにとっても慎重な判断が必要でした。よって、実はこのときは関係者の躊躇もあり、世界中に感染が広がった後の宣言となりました。これは1つの問題とされました。

 一方、2009年の新型インフルエンザは豚由来のもので、想定されていた鳥インフルエンザほどの毒性はないことが、その後わかりました。毒性が低いとはいえ、アメリカでは最大8400万人の感染者のうち1万7000人が死亡しているので、警戒レベルフェーズ6が宣言されました。当時の判断は正しかったという意見が多い一方、社会経済に制約を与えるフェーズ6を発動するほどの病気だったのか、という疑問も後に提示されています。

 この問題の論点は、予防の恩恵をどう考えるのかということについて、人の視点や立場が異なることにあります。