厚底シューズ昨年9月のマラソングランドチャンピオンシップでは、多くの選手がナイキの厚底ランニングシューズ「ズームX ヴェイパーフライネクスト%(ZOOMX VAPORFLY NEXT%)」を着用し出場した Photo:JIJI

「厚底シューズを世界陸連が禁止する!?」

 日本のネットニュースで、このような報道が流れた。15日にイギリスの新聞「テレグラフ」「タイムズ」「デイリーメール」など各紙が「ナイキ社の厚底シューズが国際陸連によって禁止となる可能性が高い」と一斉に報じたことを受けての記事だった。デイリースポーツは、「国際陸連は昨秋から調査チームを立ち上げており、『デイリーメール』によると今月末にも調査結果が発表されるという」とも伝えている。

 日本国内では、「あれだけ記録が短縮されるのだから規制もやむなし」と感じている空気が強いように思う。平たく言えば「ずるい」という感覚もあるのだろう。だから、「禁止か?」と報道されて、「まさか」より「やっぱり」という受け止め方をした人が大勢のように思う。

 また今回の報道でも不思議に思うのは、「イギリスの新聞3紙などが伝えた」だけで、「ほとんど事実」であるかのように受け止めていること。これら新聞報道の根拠をまったく確認せず禁止を想定するのはおかしいだろう。

1足3万円で、足の保護も目的
「レーザーレーサー」とは異なる事情

 私はおそらく「禁止されないだろう」と推測している。理由としては大きく2つあるが、まず、禁止されるだけの理由が不十分だ。禁止を求める声としては、「バネの役割を果たすカーボンプレートがスピードを生んでいるなら、人間の力で走っているとはいえない」というものがある。

 今回の厚底シューズと似た例として、競泳の水着『レーザーレーサー』が挙げられる。北京五輪では多くの選手が着用し、世界記録が23個も誕生したことを記憶している人も多いだろう。超高速レースになった要因はレーザーレーサーだといわれ、大会後に禁止された。

 レーザーレーサーは全身を包み、選手の体型を変えるほど密着感が高く、ひとりでは容易に着られない。しかも1着約7万円もする。「一部ウレタンを含む素材によって浮力が生じることが証明された」のも禁止の決め手だったとされている。そのため、その後、水着の素材は「布地」に限られた。

 一方でナイキの厚底シューズは、約3万円。市販されているから誰でも買おうと思えば入手可能だ。着脱も容易。そして、足の保護を1つの目的にしているのが特徴でもある。スポーツは、科学技術の発展とともにあり、用具や器具の改良によってスポーツのパフォーマンスも飛躍的に向上してきた。この流れを陸上界は拒絶できるのだろうか?