日本企業のサイバーセキュリティーは
安心できる水準ではない

 そんな保守的な日本企業から人材を引き抜こうと中国政府が考えた時、高待遇の求人広告を出せばいいや、となるだろうか。「ビズリーチ」を利用すれば、「こんな待遇で!」と技術者が自分からホイホイやってくると思うだろうか。

 思うわけがない。

 そうなると方法は一つしかない。三菱電機で働く人、あるいはここで働きたいと採用に応募をしてきた人材にダイレクトに接触をしてスカウトするのだ。

 社内の資料ならば、家族構成や年収、これまで何をしてきたのか、どんな仕事をちらつかせれば心が動くのかなどもわかる。つまり今回、三菱電機のサーバーに忍び込んで盗んだ約8100人の個人情報というのは、その「工作」の下資料なのではないか。

 もちろん、背後に中国政府という国家がいると推測される以上、どこまで行っても「真相」はわからない。国防に関する機密を盗みにきたが、セキュリティが厳しくて、しかたなく個人情報だけ盗んだ。だから引き抜きだなんだというのは考えすぎだ、と楽観的に見ることもできる。

 ただ、前出のジャーナリスト・山田氏によれば、中国の政府系ハッカーが日本企業から情報を抜き取っている現状は、我々が思っているよりも、はるかに深刻だという。

「三菱電機は氷山の一角ですね。ほとんどの日本企業のサイバーセキュリティは安心とは言い難く、これまでも中国から、かなりのサイバー攻撃を受けて情報を抜き取られている。しかし、ほとんどの企業は公表しません。三菱電機は近年、パワハラなどの問題が多発して内部からマスコミへのリークが多い。だから今回も内部リークを受けた『朝日新聞』が一報を報じました。たまたま今回はこのような形で明らかにされましたが、既にもう重要機密が漏れている可能性もある」

 実際、山田氏が某国の諜報機関の人間から入手した情報では、「東京2020」でも重要な役割を果たす国内ハイテク企業の重要機密に、中国系ハッカーがアクセスしているという話もある。

 山田氏は、近著「世界のスパイから喰いモノにされる日本」の中で、このように警鐘を鳴らしている。

「選挙だろうがテロだろうが、世界的なスポーツイベントだろうが、各国はサイバー工作を駆使しながら、自分たちの利害を追求している。(中略)対外情報機関も、国境を越えて動けるサイバー部隊も持たない日本は、これからの時代に本当に世界に伍していけるのだろうか。一刻も早く、その問いについて真剣に検討し、何をすべきかと議論すべきなのである。性善説は通用しない」

 本当の「脅威」は音もなく忍び寄る。日本を代表するものづくり企業がサイバー攻撃を受けたのに、「機密は流出してないようだからひと安心」なんて呑気なことを言っているこの国は、かなり危機的な状況だ。

 気がつけば「中国の下請け」になっていましたーーなんて恐ろしい未来にならぬことを祈りたい。