異次元のフレーバーを作り出す生産処理
「カーボニックマサレーション」とは?
コーヒーのフレーバーは、様々な要素が複雑に絡み合い生み出されるものですが、その中でも生産処理は大きな役割を果たすと考えられています。コーヒー豆は種子ですので、果肉を種子から取り出す必要があります。その工程を生産処理(プロセス)と言います。
伝統的な生産処理は、主に生産者の感覚や経験で行われていましたが、カーボニックマサレーションに代表されるように、数値化して生産処理をコントロールする方法も一部の生産者に取り入れられるようになっています。
新世代の生産処理とも言えるカーボニックマサレーションは、コーヒーチェリーの皮を剥き、ステンレスタンクの中にチェリーを投入し、密閉状態のタンクの中に二酸化炭素を注入することで、タンク中の酸素を追い出し、嫌気性発酵に近い状態で発酵を行う生産処理です。
発酵中も厳重に温度管理がなされ、発酵状態の目安となるpH(ペーハー)を基準に、発酵状況を緻密にコントロールします。密封空間で発酵が進行することで、嫌気性に近い環境だからこそ活動できる微生物の代謝により、好気性の環境とは異なる代謝物が生成されます。したがって、好気性環境では感じ得ない独特のフレーバーが生まれるのです。
今まで感覚や経験に頼っていた部分を数値化し、理論的かつ科学的にコーヒーと向き合うことも、またより良い品質のコーヒーの生産に一役買っていると言えるでしょう。カーボニックマサレーションは、「これはコーヒーなの?」と思わず言いたくなるような独特なフルーティなフレーバーを生み出し、世界中のコーヒープロフェッショナルを魅了しています。
またカーボニックマサレーションによって、今まで品質的に評価されていなかった農園も、従来より高値で取引できるようになり始めています。
さらに、今現在高い評価を受けている農園も、気候変動による病害や収量の減少などの影響を受けつつあり、従来の農業手法が通用しない未来が待ち受けている可能性があります。
したがって、カーボニックマサレーションを始めとする生産処理で、品質に差別化を図る流れは今後も続くと予想されます。
良心的なお店では、コーヒー豆のパッケージなどに「生産処理(プロセス)」の方法を記載しています。これまでよくわからず買っていた方も、一度、生産処理を意識した豆選びをしてみてください。
なお、自分好みの「最高の1杯」を淹れるための、生産処理や品種の選び方については、拙著『ワールド・バリスタ・チャンピオンが教える 世界一美味しいコーヒーの淹れ方』に詳しく書いていますので、ご一読いただけると幸いです。