1月26日に行われた大阪国際女子マラソンで、松田瑞生選手(ダイハツ)が2時間21分47秒をマークして優勝。東京五輪出場への設定タイムも突破して、3人目の東京五輪代表に最も近い選手となった。残る対象レースは3月の名古屋ウィメンズマラソン。ここで松田の記録を超える選手が出なければ、松田が五輪代表に選ばれる。
松田がナイキの厚底シューズでなく、普段から履き慣れているニューバランスの『従来型』というか『非厚底』シューズを着用して勝ったことが大きな話題となった。
「常勝ナイキを破った勇敢なヒロイン」「やはり日本人には日本人に合った靴」「シューズ作りの名匠健在」といった持ち上げようで、メディアはこぞってナイキ以外のシューズで勝った松田を称えた。
私がスポーツに関する記事を執筆しながらも、「スポーツ・ジャーナリスト」を名乗らない理由は単純だ。日本には、スポーツ・ジャーナリズムが存在しないと思うからだ。日本のスポーツ報道は「応援」が基本。「ニッポンがんばれ!」というように、サッカーでも五輪でも、NHKだって日本贔屓(びいき)が当たり前。客観報道は少ない。商業主義が蔓延してますます勝者や人気者に乗っかり、テレビは視聴率を、新聞や雑誌は購読数を増やすことに主眼が置かれ、真実の報道を追求する姿勢は肩身が狭い。
当然、私も応援報道を基本にしている。魅力的な選手やチームとの出会いを求め、その挑戦にエールを送る。大切にしているのは「応援し発信する意義があるのか?」。その観点から言えば、「松田瑞生が非厚底シューズで勝った」ことは、メディアがこぞって賛美するに価するのか?
設定タイムの基準は男女で大きな差
「厚底前提」の男子、「厚底不要」の女子
改めて事実を確認しよう。女子のマラソン代表3人目は、設定タイム2時間22分22秒を指定レースで突破するのが前提だ。もし突破者が複数いたら、最もタイムの速い選手が選ばれる。
注目すべきは、この設定タイムだ。男子の設定タイムは2時間5分49秒。これは大迫傑が2018年にマークした日本記録よりも1秒速いタイムだ。これを突破するには、過去日本選手が経験のない領域に踏み込む必要がある。大迫はナイキの厚底シューズを履いて日本記録をマークした。その前に設楽悠太が日本記録を出したときも足元はナイキの厚底シューズだった。つまり、厚底着用を前提にしなければ、設定記録突破は難しいと見ていいだろう。