「賢い遺伝子」は存在するのか

 アインシュタインはきわめて平均的な脳の持ち主だったのである。

 脳はごく標準的な構造で、多少の異常が見られたのはほんの数箇所だった。空間を知覚する部位や数式の処理にかかわる部位は大きめで、平均より15%重かった。また特有の部位がいくつか欠けていて、脳の処理のスピードが遅いことが想像されるところもあったが、グリア細胞は平均より多かった(グリア細胞は脳の構造をつくり、情報を処理する手助けをする)。

 だが残念ながら、とくに際立ったところはなかった。大半の脳の構造には多少の異常があり、平均より萎縮している部位もあれば、むくんでいる部位もある。こうした個体差があるため、現在のところ、脳の構造の特別な違いが天才の要因になると立証できてはいない。

 アインシュタインの脳はたしかにすぐれていたのだろうが、サイコロほどの大きさに切り刻まれた切片から、その明確な理由をうかがい知ることはできないだろう。

 では、DNAレベルではどうだろう?

 研究者は「賢い遺伝子」をすでに発見しているのだろうか?

 大勢の研究者がいまも探求を続けている。だが、こうした研究結果にともなう問題は、再現のむずかしさだ。たとえ、その遺伝子がきちんとした手法で確認されたとしても、その遺伝子多様体の存在はIQを3、4ポイントほど上昇させる原因でしかない。

 今日まで、知能を左右する遺伝子はまったく単離されていない。知能の複雑さを考えれば、そんなものがあるのかどうかさえ疑わしいと私は考えている。

(本原稿は『100万人が信頼した脳科学者の絶対に賢い子になる子育てバイブル』ジョン・メディナ著、栗木さつき訳の抜粋です。本書では知能を育む「環境」のつくり方を紹介しています。)