「富士―ゼロ」破談で
最大の被害者はキヤノン?

 米調査会社のIDCによると、事務機器で主力のA3レーザー複合機の18年出荷台数世界シェアは、ゼロックスグループ(富士ゼロックスと米ゼロックス)、リコー、キヤノンがそれぞれ17%で3強。以下、コニカミノルタ15%、京セラ10%、その他(東芝テック、シャープなど)が続く。IDCジャパンの石田英次グループマネジャーによると、メーカー側は通常、顧客と長期リース契約を交わすため、「シェアに大きな変動が起きない業界」という。そんな平穏だった業界に、突如として波風が立った。

 既報の通り、富士ゼロックスを傘下に持つ富士フイルムホールディングス(HD)による米ゼロックス統合交渉は昨年11月に破談した。その後、富士フイルムHDは富士ゼロックスを完全子会社化する一方、富士ゼロックスと資本関係がなくなった米ゼロックスはプリンター大手の米ヒューレット・パッカード(HP)に買収提案した。

 さらに富士フイルムHDは21年3月で米ゼロックスとの間で「ゼロックス」の商標使用契約が切れるが更新せず、独自ブランドで事務機器ビジネスを世界展開することを決めた。逆に米ゼロックスは「事務機器業界で最も強い」とされるゼロックスブランドを引っ提げて、これまで富士ゼロックスの縄張りだったアジア・オセアニアに進出してくる見通しだ。富士ゼロックス(21年4月以降は富士フイルムビジネスイノベーションに名称変更)は、商標使用に費やしていた年約100億円を使って自社ブランド力を強化し、対抗する。

 米ゼロックスはゼロックスグループのA3レーザー複合機世界シェア分の半分弱を占めており、A3レーザー複合機以外の事務機器で強いHPと統合すれば、世界で戦える事務機器ラインアップがそろい、競合他社にとって脅威となる。加えて、HPにエンジンやトナーをOEM供給するキヤノン、米ゼロックスに製品のOEM供給をする富士フイルムHDにとって、巨大連合誕生は値下げ圧力となり厄介だ。

 さらにキヤノンにとって「踏んだり蹴ったり」の結果となりそうなのが、統合後の巨大連合内での人員カットだ。SMBC日興証券の桂竜輔シニアアナリストは「人員カットすれば販売力が落ちる。それはHPにOEM供給するキヤノンにとってもネガティブ」と話す。

 買収資金にめどを付けた米ゼロックスは敵対的買収の意向を表明しており、ヤマ場はHPの4月の株主総会とみられる。ただ買収成立には懐疑的な意見も少なくない。桂シニアアナリストは「シナジーは結局コストダウンだけで、HPは嫌がるだろう。買収よりも19年に結んだアライアンス維持の方が現実的」と語る。ただアライアンスがさらに強まるだけの着地になったとしても、日本勢には脅威だ。

リコー、富士、コニミノ含めどう動く?
最も注目は中堅・東芝テック

 さらに先読みすれば、米ゼロックス・HP巨大連合は21年4月以降、主力のA3レーザー複合機でアジア・オセアニアに打って出てくる。そうなれば、販売やメンテナンスサービスをする“足場”が必要だ。24年までは富士ゼロックス(21年4月以降は富士フイルムビジネスイノベーションに名称変更)からOEM供給を受ける契約が残る機器自体も、中長期的には仕入れ先をスイッチしていくことが選択肢に入っているはずだ。

 ただし、米巨大連合側にニーズがあっても、競合他社がみすみす敵に塩を送るとは考えにくい。事務機器はペーパレス化で成熟市場ではあるが、ことアジアに関しては成長市場。さらに多くの日本勢にとって、ゼロックスが外れて富士フイルムHD製の事務機器のブランド力が弱まるエリアは、またとない“草刈り場”であるからだ。

「組み合わせがあるとすれば……」と、業界関係者が注目するのが、A3レーザー複合機の世界シェアでは数%の東芝テックだ。実は東芝テックは中国市場に限っては、長年トップクラスのシェアを誇る。

 東芝は19年11月に親子上場状態だった子会社3社を完全子会社化することを決めたが、東芝テックだけは残った。東芝テックの主力事業はPOSレジで、デジタルソリューションを強化する東芝と相性が良い。一方、複合機を含むプリンティング事業は低収益にあえいでおり、一部株主から「売却を」との外圧が掛かっている。故に「プリンティング事業を高値で売却してから東芝は東芝テックを完全子会社化。米巨大連合は弱点の『足場』と『A3レーザー複合機』を一気に手に入れる」という、両者にとって“Win-Win”の見立てが浮上している。

 ただし、そうなる前にキヤノンが、「プライドをかなぐり捨てて米巨大連合と手を組む」(業界アナリスト)という奇策も考えられなくはない。事務機器3強の中で「漁夫の利」で優位な状況になったリコー、準大手のコニカミノルタと京セラにとっても、パワーバランスが変化する時にこそ効果的な一手を打てれば、飛躍するチャンスだ。

 まずは「米ゼロックスのHP敵対的買収」の成否を、業界中が見守っている。

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