トップに失言させないために
企業がすべき危機管理
実は、このぶらさがりでの失敗例で、世に広く知られるものは少ない。というのも、ぶらさがりでの「うっかり情報漏れ」が、その経緯を含め、あるいは漏らした人物を特定して報じられることは、ほぼないからだ。多くの場合、情報を入手した記者はそれをさらなる取材のフックに活用したり、「○○社の経営幹部は××と話した」などと匿名コメントで使ったりする。うっかり漏らしてくれた経緯をありのまま暴露し、今後も重要な情報源になってくれそうな「ネタ元」を自らつぶすような記者はいない。ぶらさがりでの失言は、ボディーブローのように、じわじわと効いてくる。
ちなみに、取材の形態を問わず、危機管理に禁物な「口が軽い」タイプの経営者の多くは営業部門出身者だ。長年のクセで、ついリップサービスを心がけてしまう。また、弁舌に自信を持っている経営者も危ない。沈黙より多弁によって取材を撃退できると考えてしまう。いずれも危機対応コミュニケーションでは間違いである。
では、予期せぬ失言を防ぐために会見後のぶらさがりを全面的に拒否すればよいかといえば、それほど単純な話ではない。
取材依頼がひっきりなしの超大企業・有名企業は別だが、大多数の企業では、新商品発表などの会見が近づくと、当日の記者席で閑古鳥が鳴かないよう広報担当とPR会社が必死に集客努力するのが常識だ。
来てくれた記者、とりわけ有力媒体には、その後も自社を取材するフックとしてトップとの面識を持ってほしい。有力紙のトップインタビューにでもつながれば広報の大手柄になる。だから広報は会見終了アナウンスで「登壇者はしばらく残りますのでお名刺交換をどうぞ」と、ぶらさがり取材を促す。ぶらさがりも、メディアとの重要な接点の一つなのだ。
ただ当然、リスクの高いぶらさがり対応を経営トップに一任するわけにはいかない。担当者は、情報管理に努める必要がある。最近では、ぶらさがり取材に応じる登壇者それぞれに広報スタッフが付き添って、発言内容を記録するほか、リスクが高い話題をやんわり方向転換したり、ある程度の時間でぶらさがりを打ち切ったりと、失言を防ぐためにリソースを割くことが普通になってきた。記者にとっては目の上のコブだが、企業の危機管理として当然のことだろう。
PRしたいことだけ報道してほしい企業と、隠されたネタをいち早くスクープしたいメディア。ぶらさがりは、そのせめぎ合いが一見静かに、実は激しく展開される「場」である。