私は、オリックス時代のイチロー選手をはじめ多くのスポーツ選手の目を検査し、それぞれに適したメガネの処方やモノの見方の助言をしているビジョン・トレーナーの田村知則さんと『眼が人を変える』という本を出版した経験がある。

 田村さんが処方するメガネは、単に片目の度数を合わせるのでなく、両眼でモノを見るときの各自の癖を詳しく調べ、必要があればプリズムを施して「気持ちよく両眼で見えるメガネ」を提供してくれる。

 そういう処方をすれば、桃田選手の助けにもなるのではないか。確認すると、どうもそれほど簡単ではないようだ。もちろん、実際に検査しなければ断定できないと断った上で、田村さんが教えてくれた。

「二重になるズレが上下左右一定なら容易いですが、例えば上の動きと下の動きではズレが逆になる場合もあります。もしそうであれば、(処方は)簡単にはいきません」

 また、二重に見えるようになったことで、いままでは自然体で行っていた「見る」という行為に、余計な神経や意識を使う。それによる体への負担、首や肩の凝りなどの疲労も影響を与える心配があるという。さらに心配な情報がある。

「見えにくい場所ができる心配がありますね」(田村さん)

 例えばだが、上方や右手前など、いままで自然に見えていた場所が見にくい、対応が遅れる、死角のようなスペースができる可能性がある。しかも自分ではなかなか自覚できない場合、大きな弱点になってしまう。もしライバルにそれを見破られれば、付け入られる恐れもある。

 あくまで可能性の話だが、それを未然に回避し、対応するためにも、桃田選手には視覚のプロフェッショナルをブレーンに迎える選択も重要ではないだろうか。

 一連の事故と医療対応の遅れを見て感じるのは、残念ながら、桃田選手を支える周辺チームのプロとしての意識とレベルの欠如だ。東京五輪で金メダル30個獲得を目標に掲げ威勢はいいが、日本スポーツ界の体制はそれに相応しいレベルなのか? 意識改革とレベルアップの必要性が問われている。

(作家・スポーツライター 小林信也)