東京Aグレードオフィス(中心業務地区、都心5区の一定レベル以上のオフィス)の需給を見ると、20年の東京五輪・パラリンピックに向けて再開発が集中し、18~20年にオフィスが大量供給された。
3年連続でこれだけの供給が積み上がるのは、過去20年を振り返ってみても初めてだ。だから17年までは、ビルのオーナーたちはこの大量供給に対して需給が緩むのではないかと賃料設定もかなり弱気だった。
「われわれも空室率が上昇すると思っていたが、ふたを開けてみると、空室率は歴史的な低水準。できるビルできるビルが100%の稼働になった」と、JLLの大東雄人リサーチ事業部ディレクター。これほど空室率が低下して需給がタイトになるとは、多くの専門家が2~3年前には予測していなかった。
空室がなければ、貸し手有利。賃料は上昇局面からピークアウトしなくなった。なぜこんなにも需給が逼迫したのか。
「それまでになかった需要が東京に生み出されて爆発的に伸びたことが一つの要因で、代表されるのが18年2月に六本木で1号店をオープンしたウィーワークのようなコワーキングと呼ばれる新しいオフィス需要」と大東氏は言う。
ウィーワーク特需に加え
人材確保のため魅力的な物件に需要も
米シェアオフィス大手のウィーワーク(運営会社はウィー・カンパニー)は、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長肝いりのビジネスで、ソフトバンクGが多額の出資をしてきた。前CEOが会社を私物化するなど経営体制の問題が露呈して19年秋に上場を撤回、経営立て直しのために人員削減などに踏み切っている。新CEOには不動産業界のベテランが指名された。
日本ではソフトバンクとの共同出資で事業を行っており、今のところリストラ、出店計画の撤回はない。日本で約30拠点を構え、引き続き計画通りに開業を続けるようだ。
同業の中でもウィーワークの拠点拡大の勢いはすさまじく、都心部の新築ビルをどんどん借り上げ、供給をのみ込んでいった。オフィス市場に“ウィーワーク特需”が起こったのである。