妻が私の課題に土足で踏み込んできてつらいです……。

【質問】
『嫌われる勇気』に出てくる「課題の分離」について教えて下さい。「これは妻の課題だから」と私が踏み込まないようにしても、妻は私の課題に踏み込んでくるのです。向こうは私の課題や行動にどんどん口を挟み、こちらはそれをしないため、何やら妻の言いなりのような状態で心が疲れてしまいます。どう対処すればよいでしょうか。(40代、男性、会社員)

夫の課題に土足で踏み込む妻に、アドラー心理学はいかに対応するか?

【回答】
岸見一郎
:それははっきりと言うべきですね。こちらの課題に踏むこむ人は、けっして悪意があるわけではないでしょう。それどころか、あなたのことを心配されているのです。言い方は問題ですが。ですから、無下に「これはあなたの課題じゃない!」とキツく言わないほうがいいのです。でも、はっきり伝わるように言うことは大切です。
 いわば互いの人間関係の糸がもつれている状態なので、自分の課題ではないことに口出しをしていることにすら奥さまは気づいておられないのです。そうであればやはり「それはあなたの課題ではない」ということをはっきり分かりやすく伝えないといけない。ただし「これほど自分を心配してくれて非常に嬉しい、ありがとう」ときちんと伝えると良いでしょう。

古賀史健:車を運転していると、助手席に座った人が「そこ右、そこ右」とか「真ん中の車線に入って!」とか口を挟んでくることありますよね。あれってたぶん、こちら側の運転を信用していないことが根幹にあるんだと思うんです。
 たくさん口を挟んでくる人、つまりアドラー心理学的な言い方をすると「他者の課題に介入してくる人」って、単純に言うと相手のことを信用していないんですよね。子どもが勉強しないから口を出す親は、子どものことを信頼し切れていないから、つい口を出してしまう。ああしなさい、こうしなさい、と命令してしまう。おそらく夫婦関係のなかでも、お互いに信じきれていない部分が残っているから、ついつい口を出してしまう。
 僕の考える理想の老夫婦の姿って、お互いが言葉に出さずともすべて分かり合っているような関係なんです。もちろん自分の希望や相手の希望を言葉にして伝え合うのもすごく大事なことだと思います。だけど、言葉にしなくても分かり合えるというのが、本当のパートナー、つまり「私たち(We)」になった状態なのだろうと。
 アドラー心理学に意識を傾け過ぎて、「課題の分離、自分の課題、他者の課題」というふうにむずかしく考えると、余計に問題がややこしくなる気がします。信用しているか、信用されているか。信頼できているか、信頼されているか。そんなキーワードで、一度お互いの関係を考え直してみるとよいのではないでしょうか。

岸見一郎:少し付け加えると、課題に踏み込んでくる人から「あなたのためを思って言っているのよ」と言われるのはちょっと嫌ですね。親が子どもに言いがちな言葉です。もし口を挟みたいのであれば、率直に「私はあなたのことが心配でたまらない」と言ったほうがまだ望ましいです。
 そうすれば言われる側も、「あなたが心配してくれるのは本当に嬉しいけれど、これは私の課題なので自分でなんとかしようと思う。でも、もし自分の力だけでやれないときは力になってもらいたいのでよろしくお願いします」と返すことができます。
 まずは、そういうことをはっきり言葉で言い合える関係を築きましょう。それを長年繰り返していけば、古賀さんが言われたような理想の老夫婦になれるのかもしれません。我が家はすでに老夫婦の領域ですが、はたしてその段階に達しているのかどうか(笑)。

(次回もお楽しみに)