計画は重要だが、どうにもならないこともあるのが人生

 この映画はエンターテインメントの形をとりながら、資本主義社会の副作用、この社会で続いている“不平等”や階級の亀裂を描き出している。

 1997年のIMF危機以降に顕著化したこれらの問題は、人々をさらに“良い人生”に向けて努力するように追い立てたが、多くの人がこの亀裂の前に膝をついた。

「必死に頑張っても、どうにもうまくいかない」「努力しても報われない」。そのような中で、この映画は生まれ、受け入れられていったのかもしれない。「人生、計画通りにいかない」というのは、この映画に込められたメッセージのひとつと言えるだろう。

映画『パラサイト』が教えてくれたのは、「頑張っても報われない」という人生の残酷さだったのかもしれないカンヌ国際映画祭にて、パルムドールを受賞したポン・ジュノ監督。ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 ここ数年で『あやうく一生懸命生きるところだった』という書籍が韓国で25万部とベストセラーとなったのも、その事実を表していると言える。『あやうく一生懸命生きるところだった』は、40歳を目前に、頑張ることをやめた男性が、そんな日々の中での気づきを綴ったエッセイで、30~40代を中心に多くの共感を得ている本だ。

 本書で数々の書籍や映画から若者の生き方を考察している著者のハ・ワン氏も、インタビューで『パラサイト』に言及している。彼は、この映画から人生の本質を読み取ったと伝えている。

 ハ・ワン氏は名門美大の受験に三浪した元浪人生であり、ギテクとギウの間くらいの年齢で両方の気持ちがわかる世代。きっとキム一家には並々ならぬ思い入れもあって鑑賞したのではないかと思う。

 著書の中でハ・ワン氏は、村上春樹の『風の歌を聴け』の一節や、勤めていた会社を辞める前にまず先立つものを準備しようと貯金の計画を立てた矢先に、会社のほうが先に倒産したエピソードなどから、次のような考えに至っている。

「何事も頑張ればかなうなんてウソだ。君の努力が足りないせいじゃない」

「僕らは人生を望み通りに進められると信じているが、たった一度の波にさらわれるか弱い存在なんだ」

 そこにはがむしゃらに走り続けてきたわりに報われることのなかった人生を振り返った作家の悟りが込められている。計画はもちろん重要だ。努力することも素晴らしい。だけど、どうにもならないことだってある。そんな時、ふっと肩の力を抜くことができたら。

 若いギウが、「人生は無計画がいい」と悟った父の境地に立てるまでは、まだまだ時間がかかりそうである。そして、そんな親子を見ても、やっぱり私たちは計画を立てるのである。

岡崎暢子(おかざき・のぶこ)
韓日翻訳・編集者
1973年生まれ。女子美術大学芸術学部デザイン科卒業。在学中より韓国語に興味を持ち、高麗大学などで学ぶ。帰国後、韓国人留学生向けフリーペーパーや韓国語学習誌、韓流ムック、翻訳書籍などの編集を手掛けながら翻訳に携わる。直近の訳書『あやうく一生懸命生きるところだった』は発売1ヵ月で4.5万部超えと絶好調。その他の訳書に『Paint it Rock マンガで読むロックの歴史』、翻訳協力に『大韓ロック探訪記(海を渡って、ギターを仕事にした男)』(ともにDU BOOKS)など。