9年前に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)も、南海トラフ地震と同じメカニズムで起きました。すなわち、陸側のプレートとそこに海側から沈み込んでいる太平洋プレートのプレート境界で、プレート同士の強い固着面が破壊されたことで起きた海溝型地震が東北地方太平洋沖地震なのです。

 実は東北地方太平洋沖地震が発生するおよそ3年前から、プレート境界での固着の様子が変わってきたことが分かってきました。それまで強く固着していた領域が、一部でゆっくりと動くようになり、東北の地震の震源域に大きな力がかかるようになったのです。現在、南海トラフでも海底で地殻変動の観測が行われていますが、固着領域に大きな変化が起きているという情報はまだありません。

 もしこれが南海トラフ地震にもあてはまる兆候と考えるなら、観測データを今後も注視していく必要があるでしょう。

 また、東北地方太平洋沖地震が発生する2日前には、前震とみられるM(マグニチュード)7.3、最大震度5弱の地震が三陸沖で発生しています。M7クラスの地震は、プレート境界がずれる前兆とも取れますから、南海トラフ地震についてもこうしたプレート境界で一回り小さい地震が発生した後は大きな警戒が必要です。

──南海トラフ地震が発生した場合、どのような被害が想定されますか?

佐藤比呂志
佐藤比呂志
東京大学地震研究所・地震予知研究センター教授。1955年、宮城県生まれ。東北大学大学院理学研究科卒、茨城大学理学部助手などを経て、2004年より現職。専門は構造地質学、アクティブテクトニクス、探査地震学。地震とプレート境界地震の相互作用についての研究を行っている。地震調査研究推進本部・地震調査委員会活断層分科会委員、地震予知連絡会委員などを歴任 Photo:Diamond

 30メートルを超える大津波が襲来するという情報もあり、特に伊豆や三重、高知などの沿岸にエリアにお住いの方は「もうダメだ」と思われているかもしれません。これは東北沖の地震の際に、想定していなかった巨大な津波が発生した教訓をもとに、南海トラフでも最悪のシナリオで計算されたものです。もちろん最悪のシナリオは想定しておく必要はありますが、こうした津波が発生する確率は、それほど高くありません。

 その際に参考になるのが、防災科学技術研究所が作成している「津波ハザードステーション」です。世の中に数多く出ている津波の想定データは、南海トラフ沖で起こる南海・東南海・東海地震がすべて同時に起きる最悪のケースを想定したものが少なくありません。しかし実際には、数日から数年ずれて発生するケースが多く、東海地震は起きない場合もありますから、同時発生はあまり可能性としては高くないといえます。すると、津波は最悪のケースよりも低くなると考えられます。

 それに対してこの「津波ハザードステーション」は、プレート境界面で起きるさまざまなすべりのパターンに応じた津波を計算し、津波による最大水位上昇量が3メートル、5メートル、10メートルになる可能性のあるエリアを地図で分かりやすく示しています。ぜひ沿岸部にお住いの方は、一度確認されるといいでしょう。

 最悪のシナリオによる浸水域から外に出ることが最も重要ですが、10メートルを超える津波が襲来すると考えられる場所はそれほど多くはありませんし、南海トラフ地震は震源域が沖で、地震発生から津波襲来するまでは少し時間があります。諦めずに、素早く逃げ続けてください。