『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンス、
『時間は存在しない』のカルロ・ロヴェッリ、
『ワープする宇宙』のリサ・ランドール、
『EQ』のダニエル・ゴールマン、
『<インターネット>の次に来るもの』のケヴィン・ケリー、
『ブロックチェーン・レボリューション』のドン・タプスコット、
ノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマン、リチャード・セイラー……。
そんな錚々たる研究者・思想家が、読むだけで頭がよくなるような本を書いてくれたら、どんなにいいか。
実は、本日発売される新刊『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』は、まさにそんな夢のような本だ。本書は、一流の研究者・思想家しか入会が許されないオンラインサロン「エッジ」の会員151人が「認知能力が上がる科学的概念」というテーマで執筆したエッセイを一冊にまとめたもの。進化論、素粒子物理学、情報科学、心理学、行動経済学といったあらゆる分野の英知がつまった最高の知的興奮の書に仕上がっている。本書の刊行を記念して、一部を特別に無料で公開する。
プリンストン大学ウッドロウ・ウィルソン・スクール、心理学、パブリック・アフェアーズ名誉教授、2002年ノーベル経済学賞受賞者
すべての人の収入が同じだとしても
人生の満足度の格差は5%も縮まらない
教育は収入を決定する大きな要因である。特に大きな要因のひとつであると言ってもいい。しかし、多くの人が考えているほど、収入を決めるうえで教育は重要ではない。
仮に誰もがまったく同じ教育を受けられたとしても、収入の格差は10%も縮まらないだろう。教育にばかり気を取られると、収入に影響するその他無数の要素に注意が向かなくなる。同程度の教育を受けた人々の間の収入格差も実は大きいことを見逃してはならない。
収入は、人が自分の人生に満足するか否かを決める大きな要素ではある。ただ、その重要度は多くの人が考えるよりもはるかに低い。
仮にすべての人の収入がまったく同じでも、人生に対する満足度の格差は5%も縮まらないだろう。収入は、人が幸福を感じる大きな要因ではあるが、その重要度は普通に思われているほど高くない。
宝くじに当たることは幸せな出来事だが、高揚感は長く続かない。収入の高い人は、低い人に比べ、総じて機嫌良くいられるが、その差は多くの人が考える差の3分の1ほどにとどまる。
商売人が営業で多用する
心理学の概念
裕福か貧しいかということに注目して人を見ると、どうしても、生活のなかで収入の多寡によって差がつきやすい部分に目がいってしまう。しかし、幸福度は、収入に関係のない要素によっても大きく変化する。
下半身不随の人は不幸である事例が多い。しかし、彼らがいつも不幸かと言えばそうとは限らない。障害とは無関係の物事を考え、また障害とは無関係のことを体験しているときも多いからだ。
下半身不随の人、盲目の人、あるいは宝くじの当選者、カリフォルニアの住人など、私たちは自分とは違う立場の人がどういう気持ちで生きているのか想像ができる。だが、想像する際、私たちはどうしても、その人の特徴的な要素にだけ注目をしてしまう。当の本人は常にその要素にだけ注目して生きているわけではない。
だからどうしても、想像するのと、実際にその状況を生きるのとでは大きな差が生まれる。自分が本当にその境遇になったとき、思っていたのと違ったと感じるのはそのせいだ。これがフォーカシング・イリュージョンである。
商売人はこのフォーカシング・イリュージョンを最大限に利用する。ある商品を買うように勧める際には、その商品がどれほど生活を変えるか、その変化の程度を誇張して言うのだ。
フォーカシング・イリュージョンの大きさは、商品の種類によっても違う。大きい商品もあれば小さい商品もある。買った人の注意をどれほど長く引きつけるかによって程度は変わる。買うものが車のレザー・シートの場合、おそらくオーディオ・ブックよりはフォーカシング・イリュージョンが大きくなるだろう。
政治家も商売人と同様、フォーカシング・イリュージョンの利用に長けている。彼らは、注目を集めている問題の重要度を実際よりも誇張する。
たとえば、学校に制服を導入すれば教育の成果は大きく改善される、医療保険制度を改革すれば、良い方向か悪い方向かはわからないがアメリカ人の生活の質は大幅に変わるなどと言う。
医療保険制度改革は確かに生活を変えるだろう。しかし、普通に生活していれば、その変化は、改革そのものに注目していたときに比べて小さく見えるに違いない。