『利己的な遺伝子』のリチャード・ドーキンス、
『時間は存在しない』のカルロ・ロヴェッリ、
『ワープする宇宙』のリサ・ランドール、
『EQ』のダニエル・ゴールマン、
『<インターネット>の次に来るもの』のケヴィン・ケリー、
『ブロックチェーン・レボリューション』のドン・タプスコット、
ノーベル経済学賞受賞のダニエル・カーネマン、リチャード・セイラー……。
そんな錚々たる研究者・思想家が、読むだけで頭がよくなるような本を書いてくれたら、どんなにいいか。
新刊『天才科学者はこう考える 読むだけで頭がよくなる151の視点』は、まさにそんな夢のような本だ。本書は、一流の研究者・思想家しか入会が許されないオンラインサロン「エッジ」の会員151人が「認知能力が上がる科学的概念」というテーマで執筆したエッセイを一冊にまとめたもの。進化論、素粒子物理学、情報科学、心理学、行動経済学といったあらゆる分野の英知がつまった最高の知的興奮の書に仕上がっている。本書の刊行を記念して、一部を特別に無料で公開する。
ケンブリッジ大学コンピュータ研究所セキュリティ工学教授、情報セキュリティ経済学、情報セキュリティ心理学の研究者
形ばかりの「安全管理」が
そこら中で行われている
現代社会は安全対策に大枚をはたいているが、その真意は、リスクを減らすためではなく安心を得るためにある。私のようにセキュリティ工学に携わる人間の間では、そうした対策を「セキュリティ劇場」と呼んでいる。
例ならそこら中に転がっている。テロリストによる攻撃を防ぐためという名目で、建物に入るときに身体検査をされる。ソーシャルネットワークの運営者は、気のおけない「仲間」だけの小さなグループを作るフリをして、広告主に買ってもらえる個人情報をユーザーに開示させる。仲間になったユーザーが得られるのはプライバシーではない。プライバシーの仮面をかぶった「プライバシー劇場」だ。
環境政策も例外ではない。二酸化炭素排出量を削減するには、たくさんのお金と支持が必要だ。そのため、政府は形ばかりの方針を大々的に掲げるが、削減する効果はごくわずかしかない。専門家は皆知っている。地球を守ることにつながると政府が主張する行動の大半は、単なる「劇場」にすぎないと。
劇場は不確かさを助長する。リスクの測定や、リスクが現実になったらどうなるか。予測が困難な場面では、現実ではなく見せかけを管理するほうが簡単になる。
そうした不確かさを軽減し、見せかけと現実とのギャップを白日のもとに晒す。これは科学の主たる使命のひとつだ。
科学は昔から、粘り強く知識を積み重ねるというアプローチによって、リスクや選択肢、起こりうる結果を人々に理解させてきた。だが、劇場は無知によって偶然生まれているわけではなく、意図して誰かが生み出しているのだから、科学者は劇場の仕組みについても精通する必要があるのではないか。
科学を人々に広める者は、劇場で繰り広げられるショーを中断させ、舞台の物陰に光を当てて、何のための仮面なのかを世間に明らかにできるようになる必要がある。