日本のインクルーシブ教育推進を
後退させる判決結果

 今回、原告は地域の小学校への就学を希望したが、神奈川県教委と川崎市教委が特別支援学校を指定したことを違法と主張し、その取り消しを求めたとともに、新たな就学先として地域の学校を指定するように求めた。

 裁判の争点は、(1)特別支援学校への就学措置は原告がインクルーシブ教育を受ける権利を侵害している、(2)就学手続きの流れにある総合的判断の中の本人・保護者の意向を侵害している、(3)障害を理由に地域の学校では受け入れができない、同世代の子どもから分離するのは差別に当たる、(4)地域の学校で受け入れる場合の合理的配慮を受けられないことは差別に当たる、の4点だった。

 だが、判決ではいずれも認められなかった。

 判決を受けて、弁護団団長の大谷恭子弁護士は「今回はインクルーシブ教育を問う裁判だった。それにもかかわらず、判決文は障害者権利条約を無視した内容で、インクルーシブ教育に伴う合理的配慮についても、まったく理解がない」と涙をにじませながら落胆した。

判決後、記者会見をする原告弁護団(写真:正面左から「和希君を支える会」会長 大塚孝司さん、弁護団団長・弁護士 大谷恭子さん、弁護士 向川純平さん)判決後、記者会見をする原告弁護団(写真:正面左から「和希君を支える会」会長の大塚孝司さん、弁護団団長・弁護士の大谷恭子さん、弁護士の向川純平さん) Photo by M.F.

 特に、弁護団が前述の争点で一番強調した「就学相談では保護者の意見を最大限尊重する」の点について「この判決はあまりにも軽んじている。障害児は原則、特別支援学校への時代に逆戻りしたとさえ言える」と怒りの声をあげた。2010年、学校教育法改正の議論の中で、大谷弁護士は「就学先決定で保護者と教委の意見が一致しない場合、措置の形で教委の決定が強制されるおそれがある」と指摘したことがあった。今回の原告の事例は、まさにそれに当たる。

 義務教育における児童の就学先決定は教委に権限がある。だが、「就学相談」を仕組みとするならば、特別支援学校で学校生活を経験していない保護者が十分理解できる説明のもと、両者の話し合いを経て、意見が一致したところで結論にたどり着くものではないか。光菅さんの事例のように教委の一方的な指導や断定で、相談は成立しない。取材では障害児の保護者が就学相談で、特別支援学校への就学を誘導されたり、半ば強制されたりしていると聞く。全国の就学相談の実態を調査すべきではないか。

 会見の最後に大谷弁護士は「障害者権利条約におけるインクルーシブ(の概念)は教育だけでなく、障害者の人権そのもの、すなわち、生きるための最低限の権利です。障害者権利条約に対する日本の解釈がどれだけ逸脱しているか、この判決に異議を唱え続けるしかない」と締めくくった。

前回の記事で「重症心身障害児」としたのは医療や福祉の言葉を使ったからでした。教育現場では「重度障害児」と呼ばれます。意味は同じです。