小売業と飲食業で雇用調整は必至
時短勤務は今月、手取り減は来月から

 コロナについては、それまで遅々として進まなかったフレックスタイム制や在宅勤務(テレワーク)を一気に普及させた一面も認められる。筆者自身、早朝の往路の電車の混雑率の顕著な低下と、スライドワーク・時短勤務者等の増加に伴う16時台の復路の混雑を体感している。

 働き方の選択肢が広がった一方で、“つき合い残業”を含む一定の時間外勤務を見込んでいた正社員の労働者には、手取り減に悩まされる層も現れていることだろう。事態の進展がいまだ見通せない中で、レジャーや外食、ぜいたく品などを控える動きが顕著になるだろう。

 こうした背景の下で、店舗側にも営業時間短縮の動きが見られる。例えば、中央線と井の頭線が交差する多摩地区の代表的な繁華街である武蔵野市吉祥時でも、7つの大型商業施設の全てに時間短縮の動きが見られ、その平均は、72分となっている[図表1]。

 このうち6カ所で閉店時間を早めている。これは「早帰り・直帰の風潮の下では遅くまで開けたところで客は増えず、高価な商品・サービスの販売も期待できない」と見込んだためだろう。周辺の商店や販売店、飲食店等でも、営業時間を短縮しているところが珍しくない。

 吉祥寺に限らず、全国の小売業や飲食店では、自粛・外出抑制に伴う突然の逆風の中での生き残りのため、経費の圧縮を余儀なくされている。小売業や飲食店の経費に占める人件費率は少なくとも3割といわれるため、労働者の雇用調整をまずは行うことだろう。

 この際に、店舗長や(シフト)マネジャーが対象者とするのは、勤務時間を減らすことで人件費が削れる者とするはずだ。つまるところ年俸制・月給制の社員ではなく、パート・アルバイトなど時給制の派遣社員や直接雇用社員(以下「時給制社員」)となるだろう。

 そもそも、小売業や飲食店の労働者に占める最低賃金付近の労働者比率は高い。2015年10月21日の第10回中央最低賃金審議会(目安制度のあり方に関する全員協議会)では、こうした「地域別最低賃金額の1.15倍以内」の労働者実態がまとめられているが、全労働者に占める比率が、それぞれ2割強~4割弱に達する[図表2]。製造業の倍以上に達し、大分類の中でも第1位と3位に位置づけられる。

 昨年の参院選でも、与野党の多くが最低賃金の引き上げを前面に打ち出したことで争点となったが、小売業や飲食店はこうした引き上げによる影響を大きく受ける産業に他ならない。よって有り体に言えば、今般の新型コロナによって、相対的に給与水準の低いこうした時給制社員の手取りがさらに減少することになるだろう。一般的な月末締め翌月払いの支払形態ならば、時短が進んだのは3月から、手取りが減るのは4月からとなるだろう。

 冒頭部分で示した試算は、この最低賃金近傍労働者比率と2019年平均の産業職業別就業者総数の内訳等を乗じたものだ[図表3]。最低賃金水準に近い労働者の多くは時給制社員であり、そうした対象者が1日1時間ずつ短縮した場合というやや大くくりの前提に沿って仮定したものに過ぎない。しかしながら、島根県を除く全国で公立学校が臨時休校した中で、全体平均で「小売業の販売員の5人に1人(22.71%)」「飲食店の接客担当者の5人に2人(39.95%)」に1時間の短縮が指示された事態は十分想定される。