武漢市のロックダウン解除と共に
打ち破られた「成長神話」
しかし、Luckin Coffeeが描いた成功神話は意外にも早く打ち破られた。
新型コロナウイルスによるパンデミックで、1月23日から76日間にも及んだ「都市封鎖」、つまりロックダウン状態となっていた武漢市では、4月8日にようやくロックダウン終了宣言が出され、市外への移動制限が解除された。このことは、武漢市がこれからコロナ感染との戦いから経済活動に重心を移行することを宣言するだけではなく、中国全体の動きとも連動している。
まさにこのタイミングを狙ったかのように、中国のメディアはその数日前にLuckin Coffeeに集中砲火を浴びせた。4月2日、同社が監査で総額22億元(約330億円)の偽装取引を指摘されたと公表したのだ。
このニュースが出るや否や、Luckin Coffeeの株価はわずか数時間で26.2ドルから5ドルへと、80%もの急落を見せた。Luckin Coffeeの背後にあるレンタカー会社の神州租車の株価も、70%以上下落した。その影響で「中国概念株」と見られる多くの上場企業の株価も大きく変動した。中国概念株とは、中国国内に収入源があるものの中国国外で上場している中国企業の株のことをいう。
そのドラマチックな一連の動きの裏では、マディ・ウォーターズ・キャピタルという会社が大きな役割を演じていた。空売りを中心に展開している同社は、中国では泥水を意味する「渾水」というネーミングで呼ばれているが、投資市場ではむしろ「中国系上場企業の殺し屋」として知られている。
コアメンバーが5人足らずのマディ・ウォーターズ社は、中国概念株と見られる一部の会社にとっては悪夢のような存在だ。これまで6社がマディ・ウォーターズの摘発によって上場を停止し、1社が5年間の経営停止の処分を受けた。「マディ・ウォーターズに睨まれたら、死ななくても皮を剥がされてしまう」と多くの企業に恐れられている。