刀という社名に込めた思い

森岡 まだまだ、その道の究極のエースがたくさんいます。仲間について語り出したらいくら時間があっても終わりません。私は彼らを部下だと思ったことはないのです。同じ目的を追う同志であり、仲間だと思っています。刀はいま、30数名ですが、もっと増やしていきたい。

私は日本刀のコレクターです。日本刀は、一つひとつ、まったく同じものはないんです。それぞれが違うんです。同じ刀匠が同じように2本並べてつくっても、同じものにはならない。独特の折り返し鍛錬の様子、具合、反り具合も、そのときの条件によって、まったく同じものはできないんですね。

一人ひとりは違うんだ、違っていい。その中で、その人なりの形、長さ、切れ味、用途がある。一人ひとりに役割があって、どういう運命の下に生まれて来た刀なのか。一振り一振りの違いを愛でながら、個性的な日本刀を集めていきたい。

「刀」という会社での人集めもそれに通じるものがあります。その人独特の切れ味を尊重しながら、一人ひとりを意味のある役割、価値のもとに、個性的な日本刀を集めるかのように集めて行きたい。だから、私はよく、新しい仲間が加わったときに、また一人刀が加わりましたって言い方をしています。刀というのはなんか、私の中ではモノではなく、すごくしっくりくる精神性の象徴なんですよね。

日本人の武器であり、一振り一振りが違う意味と運命の下に生まれてきてる。それを尊重しながら、それぞれの用途、役割を組み合わせて、会社としての完全生物に近づけていく。独特の形、独特の切れ味の人を見ると、私は来てほしくてしょうがなくなるんです。

自分はこういう刀が好きだ、だからそういう刀を集めるというのは、刀剣コレクターの世界ではよくあることなんです。組織の成り立ちと、刀剣コレクターの趣味には、実は重なるところがある。刀に入ると、どんどん研がれて、とてつもない切れ味の刀になっていく、そんな会社にしたいですね。私自身もその中で特徴に応じた役割をもつ一人の刀なんです。

女性をリクルーティングするときにその名前じゃまずいとか、骨董品屋みたいに見えますとか、結構反対意見もありました。最初はほかの名前にしましょうかっていろいろみんなで言っていた。でも結局ぐるっと回って、「刀が一番いいような気がしてきた」と、最後はみんなそう言ってくれたんですよ。

森岡 毅(もりおか・つよし)
刀の本質はクライシスマネジメント森岡毅が語る刀起業の真実(2)

戦略家・マーケター。
高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウ、マーケティング理論等、一連の暗黙知であったマーケティングノウハウを形式知化し「森岡メソッド」を開発。経営危機にあったUSJに導入し、わずか数年で劇的に経営再建した。1972年生まれ。神戸大学経営学部卒。1996年、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表等を経て2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、窮地にあったUSJをV字回復させる。2012年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、マーケティング本部長。2017年にUSJを退社し、マーケティング精鋭集団「刀」を設立。「マーケティングで日本を元気に」という大義の下、丸亀製麺を僅か半年で復活に導き、旧グリーンピア三木(現ネスタリゾート神戸)を経営再建させたほか、西武園ゆうえんちのリニューアルなどいくつものプロジェクトを推進。USJ時代に断念した沖縄テーマパーク構想に再び着手し注目を集める。著書に、『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(KADOKAWA)、『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(KADOKAWA)、『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(共著、KADOKAWA)、『マーケティングとは「組織革命」である。個人も会社も劇的に成長する森岡メソッド』(日経BP社)、『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』(ダイヤモンド社)

参考記事
「最初の半年間は給料も払えなかった」
森岡毅が語る刀起業の真実(1)