最後のポイントは、なぜイタリアの感染がヨーロッパへ拡大したのか、である。ヨーロッパは現在、多くの国がEU(ヨーロッパ連合)に加盟しており、特にイタリアはその原加盟国だ。EUの理念のひとつが「人の移動の自由化」であり、加盟国の国民は域内を国内旅行感覚で移動できる。

 イタリアは歴史的な建築物や美術品など文化資産が豊富であり、世界屈指の観光スポットだ。特に冬は気候が温暖なため、寒冷なヨーロッパ中部・北部の人々にとっては避寒も目的となる。加えて北イタリアにはアルプス山脈がそびえている。標高の高いその一帯ではスキーなどスノースポーツが楽しめ、一方、車で数時間移動するだけで、ベネチアなど海辺のリゾートにも行くことができる。これらの特性から、北イタリアにEU加盟国民の観光客が集まっており、彼らの帰国と共に感染症も持ち帰られることとなった。

地理学でわかる――ウイルスを運んだ「人の移動」

リアルな今がわかる 日本と世界の地理(だからわかるシリーズ)
砂崎良(著)/井田仁康(監修)
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 以上のようなことは、実はみな地理学の対象である。地理学というと、単に国名や産物などを暗記するイメージが強いかもしれない。しかし実際は、「その地域で人間のどのような活動が起きているか」「それはなぜか」を理解する学問だ。だから、なぜ中国・イタリア間に強い経済的結びつきがあったのか、なぜイタリアを含むヨーロッパ内で人の移動が自由だったのか、それはイタリアの気候や産業がどういう状態だったからか、といったことも地理学の範疇なのである。

 今、コロナ禍により各国で国境が閉ざされつつある。このような時代を生きていくうえで、地表の現状を探究する地理学は、確かな指針となってくれるだろう。

AERA dot.より転載