2015年には予見できなかった、中国プレイヤーの台頭
小林:ただ、正直、ここまでモバイルゲーム市場で中国が中心となるとは想像していませんでした。現在ではモバイルゲーム市場のかなりの規模を中国が占めています。
村上:「コンテンツ」という意味では読みは正しかったということですよね。「ゲームがくるだろう」という読み自体は当てたけれども、市場を牽引する国またはプラットフォーマー、あるいはSNSの普及度などのトレンドをやや読み違えていたのでしょうか?
小林:結果論で言うと、ゲームやソーシャル、プラットフォームという全てのレイヤーを同時に攻める難易度が、やはり相当高かったということなのだと思います。
例えば、Facebookも自社ではゲームは開発せず、SNSやプラットフォームとしての立ち位置を極めるところにフォーカスし、ゲーム開発はジンガなどの他社に任せていたわけですよね。DeNAはそれら全てを同時に取り組むという戦略を出しましたが、難易度が高かったのだと思います。
朝倉:ファーストパーティー(自社でプロダクトを開発する事業者)もサードパーティー(他社プラットフォームに自社プロダクトを提供する事業者)のマネジメントも同時に狙おうとしたけれど……、ということですね。
中国勢の隆盛について覚えているのが、2015年に小林さんと米国で話したことです。当時、私はスタンフォード大学の客員研究員としてベイエリアに住んでいましたが、小林さんがDeNAのUSオフィスを訪れるために渡米していて現地でお会いする機会がありました。
その際に話していたのが、中国のアプリはインターフェイスがこなれておらず、フォントも不自然な明朝体が溢れており、すぐに中国のデベロッパーだとわかる。こうしたインターフェイスの面で、日本人は抵抗を感じるのではないか、ゲーム性がどれだけ優れていても、日本では流行らないのではないか? といった話をしていました。それがたった5年ほど前のことです。
そこから比べると、状況は一変しましたね。1つは、中国メーカーのキャッチアップが非常に早かったということ。もう1つは、ユーザー側の「慣れ」も早かったということでしょうか。
これはグローバルなプレイヤーが展開するサービスに触れている中で、日本っぽくないUI、UXにも慣れていったというユーザー側の変容が大きいのかもしれません。そうでなければ、今のTikTokの成功は説明できないと思うんですよね。2014年、2015年だったらTikTokは日本ではヒットしていなかったんじゃないかという気がします。
村上:その通りだと思います。2011年に話を戻すと、この年はNEXONが上場しました。同社の上場に見るように、韓国・中国のオンラインゲームの普及は、実は東京の市場でも既に経験されていたんですよね。
Facebookの上場や、NEXON上場、そしてモバゲーのグローバル化など、当時、異なるの国や地域でのプラットフォームの展開が起きていました。
小林:2011年は変数が多い年でしたよね。どこの国がくるのか、そこで主導権を持つのはどういうレイヤーの会社なのかープラットフォーマーなのか、あるいは、DisneyやバンダイナムコのようなIPホルダーなのか、それとも開発力のあるゲームデベロッパーなのかー、といった議論がされていました。
または、ゲーム開発においてであれば、中国のMMORPGに代表されるような複雑性が高いゲームなのか、今で言う『ポケモンGO』のような単純なゲームなのか、といったことが取り沙汰されていました。各社がどの方向に向かうのかを問われていた時代だったのだと思います。
朝倉:2010年はミクシィがFacebookに対抗して、各国のローカルSNSとの関係強化に取り組もうとしていましたし、2011~2012年にかけては、GREEやDeNAが東南アジアなどで現地の様々なプイレヤーとアライアンスを組んでいた頃でもあります。
結果としては、どのアライアンスもうまくいかなかったと総括せざるを得ないかと思いますが、まだ過渡期だったからこそ起きた現象でもあったのでしょう。もし今、この時期に戻ったとしても、では何をすればよかったのかというのは、悩ましい点です。