モバイルゲームの興亡が日本のスタートアップにもたらしたもの

村上:そうですね。これらの動向を受けて、SONYは2013年にPlay Station4を発売しました。同社は当時、非常に苦労していたんですね。モバイルゲームの成功を横目で見ていたプレイヤーです。

サブスクリプションモデルでの課金やオンラインゲームから学んで、PS4という据え置き型ゲーム機の位置付けが相当変わったタイミングでした。2010~2012年のオンラインゲーム・SNS業界のモメンタムは、SONYをはじめ、据え置き型ゲーム機も含むゲーム業界全体に相当大きな影響を与えたと思います。

小林:確かに、モバイルゲームに限らず、日本のゲーム市場全体で言うと、PS4やNintendo Switchなど、日本勢の存在感はこの後にまた復活しています。そういう意味では、モバイルゲームがゲーム業界全体に与えた影響は非常に大きかったと思います。

朝倉:モバイルからの回帰だったんでしょうね。

2012年頃を振り返ると、今では信じられませんが、スタートアップに関する話題は、モバイルゲームを中心に回っていたと言っても過言ではありません。ただ、電ファミが発表した資料の目次を見ても、2018年の「クロスプラットフォームの到来」以降は、正直あまり話題になる材料がなくなりました。

小林:そうですね。モバイルゲームの市場が急激に立ち上がってきた時に、人材やサービス運営のノウハウが一気に底上げされましたが、それらがのちに様々な産業に伝播していった結果、「ゲーム産業」単体としてのプレゼンスは相対的に小さくなったかもしれませんが、あらゆるところに影響が遍在するようになったんでしょうね。

村上:2010~2012年にかけてオンラインゲーム業界から学んだことは非常に大きいですよね。支配的なゲームのルールが違う地域でどう戦うか、また、その産業をどのレイヤーで攻めるかーコンテンツなのかアプリなのか、プラットフォームなのかー、この2つの観点での学びを、久しぶりに日本が経験した貴重な産業だったと思います。

小林:当時、まさに当事者としてそのど真ん中にいましたが、失敗は多かったものの、「これは流れを掴んでうまくいったな」という経験も多くありました。そうしたダイナミズムをじかに味わえたことは、経営者として、またこうしてスタートアップエコシステムに身を置く上で、大きな財産になったと思います。2010年代はそうした人材が一気に増えましたよね。

朝倉:2010年代前半の日本のソーシャルゲームやモバイルゲームは、良い文脈で語られないことも少なくありませんし、当事者として反省すべき点も多々あります。

一方で、当時から「数年後にはこういった急成長する市場を経験した人の中から、次の産業を作る人たちが出てくるのではないか」といった話はしていましたよね。

今、スタートアップの世界を見渡してみると、モバイルゲーム文脈でキャリアを築いた人が在籍していることが少なくありません。モバイルゲームという急成長市場は、エスタブリッシュメントの世界から新興産業への人材の大移動を促し、またそうした人材が急成長市場で鍛えられた後に、様々なスタートアップに散っていったということでしょうね。

小林:その意味では、市場の急成長を経験し、事業や産業の大きな変化を体感していく中で、スタートアップエコシステム全体が豊かになってきたのかもしれませんね。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)、signifiant style 2020/3/22に掲載した内容です。