2010年DeNAのngmoco買収。クロスボーダー・クロスデバイス戦略
小林:村上さんは、一連のゲーム史の中で印象に残っていることはありますか?
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):私は、2000年代前半はゴールドマン・サックスに在籍していたのですが、通信業界を担当していました。当時は、アプリデベロッパーの競争より、通信キャリア各社の支配権争いが大きな動きを見せていたと記憶しています。
NTTドコモが海外進出に頓挫して、ソフトバンクからスマートフォンが登場しましたよね。その後、2010年にDeNAがngmoco(米国のソーシャルゲーム企業)を買収しました。発表のプレスを目にした瞬間、私は小林さんに「これ何?」と電話をかけたことを今でもよく覚えています。
小林:そうでしたね(笑)。当時のDeNAの時価総額は約3000億円でしたが、その1割、約340億円をかけてngmoco社を買収しました。
村上:当時私は様々な業界を担当しており、ゲームも任天堂やSONYを中心に見ていたのですが、当時は、DeNAはまだ新興プレイヤーという立ち位置でした。ですが、あのバリュエーションでngmocoを買収し、相当驚きましたね。
先程、iモードの話が出ましたが、10年前は通信キャリアが「これこそがプラットフォームだ!」と主張していましたが、数年後にはアプリデベロッパー各社が同様のことを主張するようになったという意味で非常に印象に残っています。
朝倉:2010〜2011年は、今振り返ると強烈な過渡期でしたよね。auがスマートフォンのCMでレディー・ガガを起用し、大々的に普及を呼びかけていたのもその頃です。笑い話ですが、当時はスマートフォンという存在の理解が十分に進んでおらず、CMのインパクトもあって、「ソフトバンクが出しているのがiPhone、auが出しているのがスマートフォン」なんてことも言われていました。
DeNAがngmocoを買収し、2010年度第四半期の決算説明資料で「X-device(クロスデバイス)/X-border(クロスボーダー)+プラットフォーム」を柱とする成長戦略を発表したことも印象的に記憶しています。
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朝倉:当時、私はマッキンゼーを退社し、学生時代に起業したネイキッドテクノロジーに復帰していました。同社はガラケーベースのアプリケーションを作るためのミドルウェアを展開していたスタートアップだったのですが、ガラケーだけでなく、AndroidやiPhoneにも1つのソースコードからクロスデバイス・クロスプラットフォームで同じアプリを展開できるようにプロダクトを発展させようと目論んでいました。
その矢先にDeNAの発表があったので、「先手を打たれた……」と思ったのと同時に「鮮やかだな」と感じたのを覚えています。確か『忍者ロワイヤル』を発表したのもこの時期でしたよね?
小林:はい。同時期の2011年です。ngmoco買収の裏で作られていました。
朝倉:『忍者ロワイヤル』はネイティブアプリベースのゲームでしたよね?これはよくできたゲームだったと思います。
小林:はい。当初はMobage(モバゲー)の中でリリースをする予定で、モバゲーと密接に結びついていたのですが、DeNAとしては初めてスマホ専用につくったタイトルでした。朝倉さんが先述した決算説明資料は、実は私が作成しました。DeNAのCEOであった南場智子さんがCEOを退任され、後任として守安功さんがCEOに、私も取締役に就任するというタイミングでした。
当時は、日本からグローバル市場を攻めるチャンスがある、という風潮がありました。まだ、スマートフォンがこれほど急速に普及するという世界は見えていなかった時代です。そうした中で、クロスデバイス・クロスボーダーという戦略を描いたという、私にとっても非常に思い出深い一件です。
村上:決算資料にある、「2014年には売上高の50%を海外から」という成長戦略に衝撃を受けたことを覚えています。
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村上:当時の時代背景としては、Facebookが翌年の2012年に大型IPOをしています。「ソーシャル」ということ自体がテーマとなっていた頃で、ゲームとソーシャルがクロスし始めた時期でもありました。
そんな背景の中、日本の、ガラケーのプラットフォーマーが「ソーシャル×ゲーム」という軸で海外に打って出るとのことで、ビジョンは大きいけれどどうなるのだろう? と、個人的には懐疑的に見ていたような記憶があります。
小林:当時は市場の読みとして、欧米・中国・その他の国々と日本の市場の比率を、Play Stationのような据え置き型ゲーム機の比率から掛け算して算出していました。実際にその後に起きたことを振り返ると、モバイルゲーム市場もグローバルで大きくなったという読みは正しかったと思います。
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