「できるだけ高いバリュエーションで資金を調達したい」という感情は、経営者であれば当然抱くものでしょう。スタートアップのバリュエーションは、会社側と投資家側の観点を提示し合い、落とし所を見出すことで固まるものです。今回は片方の当事者である投資家が、どのような点に留意してバリュエーションを見ているのかについて、具体例を踏まえて整理します。

Disclaimer:シニフィアンはスタートアップへの出資を事業の一環として行なっており、当事者としての観点を踏まえた内容であることを表明します。

投資家から見たスタートアップのバリュエーションにおける留意点Photo: Adobe Stock

そのバリュエーションは誰の評価に基づくものか?

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):スタートアップのバリュエーションランキングなど、ベンチャーファイナンスに関する情報が増えるにつれ、「そもそもバリュエーションとは何なのか?」というご質問を受けるようになりました。非常に本質的な問いだと思うのですが、今回は、投資家の立場から見ると、スタートアップのバリュエーションがどのように映るのかについて考えてみたいと思います。

予め注釈を加えると、我々シニフィアンはスタートアップに対する出資を事業の一環として行っています。そのため、我々がバリュエーションについて語る内容は、投資側としてのポジショントークになりますし、ともするとセンシティブな内容でもあります。

現実的にはベンチャーファイナンスの場合、不特定多数の投資家が参加するマーケットがあるわけでもないので、発行体サイド(スタートアップ)と投資家サイドが、それぞれの観点を互いに提示し、相対で調整を重ねながら、納得できる落とし所を見出すことができるかを模索するわけですが、こうした力学によって各社のバリュエーションが固まっていくことを思うと、片方の当事者である投資家サイドがどのような見方をするかを予め伝えることは、ある意味フェアなことなのではないかと考え、本テーマを扱う次第です。

さて、バリュエーションについて検討する際、投資家サイドが留意する主な点は大きく3つに分けられるのではないかと思います。

まず1つ目が、誰の評価に基づく値付けなのか。2つ目が、事業の本質的な価値に紐づいているか。そして3つ目が、根拠のある妥当な事業計画に基づいた値付けかどうかですね。これらの点について、順を追って考えていきましょう。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):まず、1つ目は、誰の評価に基づくバリュエーションなのか。わかりやすく言うと、偏った投資家による値付けになっていないかですね。具体例としては、新たに参入した、ごく少数の株主のみで値付けがされているようなケースです。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):そうですね。同様に、既存投資家のみによる値付けにも注意します。既存投資家は、以前のラウンドで通常はより安い評価額で株式を取得しているため、新規に加わる投資家とは値付けを行う際の利害が異なるはずです。そのため、新規投資家が入らず、既存投資家のみで行われた調達ラウンドの値付けに対しては、注意深く確認することになります。

小林:既存投資家は、過去、投資を積み重ねてきているため、リスク・プロファイルが新規投資家とは異なりますからね。

村上:はい。一方で、小林さんが先述したように、新規投資家のみによって値付けされ、既存投資家が全く乗ってこないラウンドにも懸念を抱きます。新規投資家による評価をベースに算定した評価額であっても、それをもとに、十分に交渉できるのであればフェアなのでしょうが。

朝倉:加えて、戦略的投資家による値付けもまた、純粋な投資家の視点とはズレが生じるでしょうね。

小林:はい。事業会社が参入するラウンドでよく見受けられるケースですね。業務提携による双方の事業のバリューアップを視野に入れた値付け、つまり純投資ではない形のバリュエーションがなされるケースでは、よりストレッチした評価が加えられているだろうということを想定することになります。