「日本の謎」を解く鍵の候補として
山中伸弥教授が言及した研究成果

 しかし、「日本の不可解な謎」はまじめに解く必要があるだろう。根拠がなく、都合のいい自画自賛である「安倍モデル」では、今後襲来が懸念される新型コロナウイルス感染症の「第二波」「第三波」に対して、企業や学校、そして国民一人一人は不安が募るばかり。しっかりと備えることができないからだ。

「日本の不可解な謎」については、さまざまな説が登場し、百家争鳴状態となっている。まず、政府の専門家会議は、「クラスター対策」に対する批判に反論している。クラスター対策を通してウイルス伝播の特徴を早期につかみ、国民への注意喚起や対策につなげられたことで、日本の死亡者数や重症者数を欧米諸国と比べて低く抑えることができたと強調しているのだ(『「日本はなぜ死亡者数が少ないか」専門家会議が挙げたいくつかの要因』)。だが、前回指摘したように専門家会議は、そもそも「クラスター対策」を専門的に検証する能力がない人たちの集まりだ(第242回・P4)。

 また、「BCGワクチン」が感染後の重症化を防いでいるという見方がある。日本では義務化されているBCG接種が、重症者・死亡者の多い欧米諸国では行われていないことに注目している(朝日新聞4月15日付『BCGワクチン、コロナ死亡率と相関性?学会は非推奨』)。国民皆保険による医療アクセスの良さなど、日常における医療体制・公衆衛生体制のレベルの高さを挙げる意見もある(日医on-line 『日本外国特派員協会で新型コロナウイルス感染症に関する日医の取り組み等を説明 横倉会長』)。

 その他にも、「家の中で靴を脱ぐ」「手洗いを頻繁に行う」「毎日入浴する」という日本人の生活習慣が、新型コロナウイルスの蔓延を防いだという声もある(NEWSポストセブン『日本人の習慣がコロナ感染回避か、靴脱ぐ・電車で無口ほか』)。

 そして、日本社会独特の「同調圧力」の強さを理由に挙げる人もいる。日本の「コロナ特別措置法」は、欧米のような「命令」も「罰則」もなく、ロックダウン(都市封鎖)もない。「緊急事態宣言」における「外出自粛」と「休業要請」という強制力のないものであった。これは、海外から緩すぎると批判されたが、いわゆる「世間の目」という同調圧力が強い日本では十分であった。これが功を奏して、感染の拡大が防がれたというのだ(佐藤直樹『コロナ禍で浮き彫り、同調圧力と相互監視の「世間」を生きる日本人 企業名が晒され、感染者が差別される…』)。

 しかし、これらの諸説は実感としては分からないでもないが、新型コロナウイルスの重症者・死亡者が抑制されたこととの因果関係は、明確に証明できないものである。

 ノーベル賞受賞者である京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長は、日本の感染拡大が欧米に比べて緩やかな理由があるはずだとして、それを仮に「ファクターX」と呼んでいる。そして、このファクターXを見つけることこそ、今後の日本人と新型コロナウイルスとの闘いの行方を左右すると指摘している(『山中伸弥×橋下徹 日本人が持つ、新型ウイルスに負けない「ファクターX」とは?』文藝春秋digital)。

 その山中氏が、「現段階では根拠はまだ薄いです」という指摘こそするものの、「ファクターX」の候補の1つとして前述の対談記事で言及した新説がある。京都大学大学院の上久保靖彦特定教授と吉備国際大学の高橋淳教授の研究成果である。本稿は、この研究を取り上げる。既に、一部のメディアが報道しているが、研究の一部を切り取って報じているために、まだ研究の全体像が広く知られていない。筆者は、論文を精読し、できるだけ正確に論文の内容を伝えたい。