「女性は毎日、午前中は37度台前半、午後は38度前後の熱が続いていました。1週間前からは寝汗をかくようになったそうです。ただし、食欲低下や体重減少はなし。1年前に子宮癌の摘出手術を受けていますが、常用している薬はなし。

 診察時の体温は36.9度。血圧は154/84で高めですね。血液・生化学検査は異状なし。子宮癌を摘出されているので、骨盤転移の可能性を疑い、骨盤CTを撮りましたが異常はありませんでした。どう診断しますか」

 生坂教授の指導のもと、患者を診察した研修医の診断は「腫瘍熱(癌が原因で起きる熱)」。

 だが、教授の診断は違った。

「患者さんは問診の際、クーラーは体に悪い贅沢(ぜいたく)品と考えており、外出時はすべての電化製品のコンセントプラグを抜くことにしていると言っていました。そこで気象データを調べてみると、発熱が出現した6月7日には、千葉県の最高気温は28度まで急上昇しており、以降徐々に真夏日(30度以上)に移行していました。

 そこで私は、環境温上昇による『うつ熱』と考え、クーラーの適切使用など室内環境を整えるよう指導したところ、発熱・寝汗ともに消失しました」

〈インタビュー〉高齢者の炎症反応がない
原因不明の夏の発熱はうつ熱

――今年だったら、まずは「新型コロナウイルスに感染したかもしれない」とドキドキしてしまうケースですね。高齢だし、37.5度以上の発熱がずっと続くというのは。

 そうですね。でも発熱以外の症状はないので、PCR検査の対象からは除外になるでしょう。

――クリニックの医師は、CRPは陰性なのに抗菌薬を投与しました。役に立つのでしょうか。

 原因不明の高齢者の発熱に対しては、多くの医師がとりあえず抗菌薬を投与する傾向にあります。理屈では発熱以外の症状がなく、さらにCRPが陰性の場合は、解熱薬や氷嚢(ひょうのう)などによるクーリングで経過を見るべきなのですが、高齢者の万が一の細菌感染症は命取りになるので、投与の誘惑に勝てなかったのでしょう。

――万が一を心配したということですか。

 そうです。