推進役は、エコマネー(地域通貨)の提唱者でもある経済産業省職員の加藤敏春氏だ。彼は01年当時、経済産業省関東経済産業局総務企画部長だった。経済産業省職員であるが、ビジネス本の著者でもあり、90年代後半から著作などを通じてエコマネーや市民起業の提唱を行ってきた。
彼の考え方は、「40歳を超えたら定年に備えて第二の人生を模索すべき」というものだった。その第二の人生で働く受け皿として、NPOやコミュニティービジネスを考えていたと思われる。彼は08年のリーマンショック時には、省エネ家電へのエコポイント制度を提唱したことでも知られる。
副業は将来のセーフティーネットにも
なり得る時代に
01年当時は、経営コンサルタントの藤井孝一氏による「週末起業」が提唱されたばかりの時期であり、加藤氏の考え方は先進的だった。しかし、経済産業省内では必ずしも主流の考え方ではなかったように思われる。理由としては、関東経済産業局内には専門部署ができても、他の地方局では創設される動きが続かなかったためである。
20年現在では、年齢や性別を問わず、自己実現を追求する世の中に変わってきていると筆者は考える。本業での生活が難しい事態が生じた際に備えて、副業を本業化して生活できるよう、自分でセーフティーネットを準備していく時代を迎えつつある。ワイン好きの人がソムリエの資格を取得して勤務時間外に講師になったり、勤務時間外に家業を手伝ったりする。
本業のコミュニティー以外のコミュニティーに属することは、社会的孤立を防ぐ上でも重要だ。本業がダメでも、副業で生きがいを見つけることで、本業での精神的不安を和らげることもあるだろう。
新型コロナウイルスの影響で、多くの人々が失業や雇用不安にさらされている。しかし、現在の需要減の状況だけの視点から副業の就業時間に制限をかけたままだと、副業の効果の本質を見誤る恐れがあると筆者は考える。本業では不足する生活費の獲得を目的にした副業と、本業とは異なる自己実現の追求の場である副業とは、労働者の自己申告によって切り分けた制度設計を行う必要があると思うのである。
国民にとっては多様性ある自己実現の追求こそが、副業の本質であることを忘れてはいけないだろう。