「知識経済」化は加速するが
工業社会での制度が残る

 過去四半世紀、付加価値を生み出す主役である知識を基盤とした経済への移行が著しく進んだ。

 この「知識経済」化が始まったのは1970年代からだが、ITデジタル技術の進展によって、1990年代後半以降、加速した。

 かつて付加価値の源泉は、資本(設備)や土地、労働力などの物的資本にあったが、「知識経済」の下では、特許や商標、ノウハウといった無形資産、いわばアイデアや技術など、情報や知識が富を生み出す経済に移行した。

 その変化にうまく対応できなかったことが、日本経済の過去30年余りの低迷の原因でもある。

 1970年代末には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれる全盛期を迎えたが、その当時のモノの大量生産や大量消費による成長を前提にした経営思想(フォーディズム)から抜け出せていないのである。

 ただ、「知識経済化」は、世界的にもさまざまな不適合を生み出している。

 それは、私たちの経済制度や社会制度が、物的資本が中心だった時代に作られているからだ。

 持続的な経済成長の時代が始まったのは、農業社会から工業社会へ移行した19世紀初頭だったが、多くの制度の基本設計は19世紀後半に整えられた。

リモートワーク広がれば
伝統的な銀行業も時代遅れに

 例えば、近年、日本だけでなく、世界中の銀行業の融資が増えず、金融市場で過大なリスクテークが行われていたのは、銀行業がアイデアの時代に適合できなくなったためだ。

 物的資本が付加価値を生み出す時代なら、それを担保に貸し出しを増やせばよかったが、無形資産に対する投資は莫大な資金を必要とせず、担保を取ることも難しい。

 パンデミック危機はこうした伝統的な銀行業の時代遅れを一層、際立たせるだろう。

 コロナ禍が長引き、リモートワークが一般化すれば、広いオフィスも不要となり、都市への企業などの集積が以前ほど進まなくなる可能性もある。

 そうなると、担保としていた不動産の価格も価値が失われ、伝統的な銀行業はますます経営が厳しくなる。

 あるいは今回のパンデミックをきっかけに、危機に直面した企業に融資ではなく、出資を広く行うことで、銀行業は生まれ変わるだろうか。

 無形資産の研究の権威であるジョナサン・ハスケル・インペリアル・カレッジ・ビジネススクール教授らの分析する通り、無形資産への投資は融資ではなく出資がフィットするが、銀行は自らビジネスに参加しリスクを取るといった発想転換ができるだろうか。