「ユニットエコノミクス」とは何か。
 LTV(Life Time Value)、CAC(Customer Acquisition Cost)に触れつつ、限界利益との対比から、なぜユニットエコノミクスが着目されているのか、事業戦略上、どのように捉えるべきなのかについて考えます。

【スタートアップ用語考】ユニットエコノミクスについて考えるPhoto: Adobe Stock

SaaSの普及に伴い注目される「ユニットエコノミクス」

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):知っているようでよく理解していないスタートアップ用語を改めて考えるこのシリーズですが、今回は、「ユニットエコノミクス」について考えたいと思います。顧客1人当たりの採算性を表す指標のことですね。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):ユニットエコノミクスという用語ですが、SaaSの普及とともにより広まった印象があります。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):そうですね。ユニットエコノミクスはある意味、限界利益(売上高から変動費から引いたもの。売上が1単位増えることで増える利益のこと)に類似した概念だと思います。

限界利益というのは、製造業であれば、例えば「1万円の商品を3000円の製造原価で作った時に残る利益7000円」といった概念ですね。それに対して、ユニットエコノミクスは「1顧客当たりの収益性」を意味します。

朝倉:限界利益は、ミクロ経済学の教科書でも取り扱われる管理会計の概念です。商品・製品単位の収益性を表し、製造業等でよく用いられていました。これに対して、ユニットエコノミクスはSaasの普及以後、より重視されるようになった概念だと思います。

小林:ユニットエコノミクスの分かりやすい具体例としては、マネーフォワードが挙げられます。同社は決算資料にユニットエコノミクスの定義を明記しています。一般的に、SaaSモデルの事業においては、初期に顧客を獲得するために一定の費用が先行してかかります。

(株式会社マネーフォワード 決算説明資料)
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小林:その瞬間のPLを切り取ってみると一見赤字に見えるのですが、獲得した顧客からは継続的に収益を得る想定ですよね。一人、あるいは一社の顧客が、当該企業との取り引きを始めてから終わるまでの期間内にどれだけの利益をもたらすのかを計算したものがLTV(Life Time Value。顧客生涯価値)です。

一般的には、このLTVが顧客獲得にかかった費用(以下、CAC。Customer Acquisition Cost)より3倍以上多ければ、健全だと言われています。これがユニットエコノミクスの健全性について議論される際によく見聞きする「LTV/CAC>3x」という公式です。

朝倉:具体例を挙げて考えてみましょう。月額1000円のサービスがあって、平均して顧客は50ヵ月間使用し続けるとしたら、LTVは5万円です。

それに対して、CACが1万円だったとすると、将来的に5万円を支払う顧客を1万円で獲得できるわけですから、獲得効率が良い、「ユニットエコノミクスが成立している」と言えます。

反対に、例えばLTV5万円を創出するためにCACが7万円かかるとなると、明らかに採算が合っていませんから、「ユニットエコノミクスが成立していない」ということになります。