支配者が駆使する
4つのモード

 さて、このような権力者は、リアルな場で集団と対峙したときの人々の支配技術にもたけている。つまり、その場のモード(雰囲気)を支配することができるのだ。

 図で見てみよう。もともとオフィスにおける「仕事の空間」は、以下のようなモードに分類することができる。

連帯(熱狂)モード

 場は前向きでポジティブなエネルギーに満ち、メンバーの方向性が一致していて、盛り上がる機運がある。場合によっては、支配者は場の雰囲気を熱狂にまで仕立て上げることもできる。創造的な場である。

共感(理解)モード

 場の状況を、メンバーが自分事としてとらえている。その場には状況を理解し、納得しようという雰囲気がある。メンバー一人一人が心理的に受け入れられていると感じる安定性がある。

牽制(抑圧)モード

 場には剣呑(けんのん)な雰囲気があり、支配者や他メンバーからの牽制を受ける。スケープゴートが作られ緊張がみなぎる。相互監視させられる。揺動される。「このままだったらうちの部署はなくなるだろう」といった言葉で不安があおられ、「そのうち席がなくなるよ」と言われた人の席が本当になくなったり(目をつけられた人が左遷されたり)して、メンバー同士、疑心暗鬼になり、恐怖が増幅していく。

対立(憤怒)モード

 その場において何らかの闘争が表面化する。勝ち負けへの固執が強調される。本来支配者に向けられるべき不満を支配者が操作して、内部対立の形で噴出させ、他者への不満として昇華させる。支配者は破壊的にふるまう。トランプ大統領がアメリカ国内で引き起こしているモードもこれだろう。

 図における円の内側が、場の「通常モード」である。普通、オフィスは通常モードの中で4つのモードを行き来し、時としてはみだして、場の空気が転換する。

 集団の支配者(権力者)は、声のトーン、視線の投げ方、無視、褒める、けなすなどでモードを転換させることができる。そしてそのモード転換を通じて組織をコントロールする。支配者は決して場の雰囲気を安定させない。内部分裂を促したかと思えば、連帯を強調したり、突然共感してみせたり、あるいは急に怒鳴りだしたり、周囲にモードの先読みをさせない。だからこそ、支配者に注目が集まり、その一挙手一投足に皆が注意するようになり、支配者は顔色ひとつで集団を思うがままにコントロールできるようになる。