インフレは貨幣的な現象ではない
この10年でわかった真実

「インフレはいつでもどこでも貨幣的な現象である」。半世紀ほど前にミルトン・フリードマンが語ったこの言葉は、あまりにも有名だ。

 貨幣的な現象というとやや抽象的だが、要するに「物価は金融政策で決まる」という意味である。

 この言葉が極めて大きな影響力を持ったことは、「物価の安定」が金融政策の責務として確立され、物価目標を数値で示すことが標準的な政策の枠組みとなっていったその後の歴史を見ればわかる。

 しかし、近年の事実を観察する限り、物価はフリードマンの思想で捉え切れるほど単純なものではない。

 リーマン・ショックの後、米FRB(連邦準備制度理事会)は断続的に量的緩和を行い、そのバランスシートは2010年代の半ばまでに5倍に膨らんだ。しかし、インフレ率はFRBが目標とする2%に結局、届かなかった。

 日本銀行のバランスシートも、2013年に「異次元の緩和」が開始されてから今までに4倍に膨らんでいる。しかし日銀の見通しによれば、2022年度、すなわちかつてない超金融緩和が続けられて10年目になっても、インフレ率は1%にすら達しない。

 50年前はともかく近年では、「インフレは貨幣的な現象」という考え方で物価の動きを理解しようとしても無理がある。

 コロナ対応でどれほど強力な金融緩和が行われようが、物価はそれ以外の要因からも大きな影響を受けるのである。

財政の大盤振る舞いにも
将来、その反動がある

 コロナ危機に対しては、財政政策もリーマン・ショック時を上回る大盤振る舞いとなっている。金融政策だけでなく、それを強力な財政政策と組み合わせれば、インフレになるという見方がある。

 しかし、今、行われている各国の財政政策は、あくまでコロナ危機への緊急対応だ。平時にはできるだけ財政の均衡を目指すべきだ、という考え方そのものは基本的に変わっていない。

 今後、経済が回復すれば、財政赤字の縮小に向けて政策のかじが切られていくことは間違いない。インフレになるまで政府債務を増やし続けてもよい、というMMT(現代貨幣理論)の考え方が採用されるようになったわけではないのだ。

 この間、民間企業は現在、当面の資金を確保するため借り入れを増やしている。コロナ危機を何とか乗り切っても、企業の財務構造は以前のゆとりを失っている可能性が高い。

 内部留保をため込み過ぎだとあれだけ批判されていた日本企業の中にも、その貯蓄を使い果たすところが出てくるだろう。