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裁量労働制の拡大、高度プロフェッショナル制度の導入など、働き方改革を巡る議論は、今や国家的課題としての高まりを見せている。しかし、その現場に目を向ければ、依然として労働時間の短縮という「各論」のレベルで語られているのが現実だ。働き方改革を、社会的責任を越えて生産性の問題として捉え直すと、企業が取り組むべき課題として、働き方改革の本来の姿が見えてくる。

手段が目的化した
働き方改革

アデコ 代表取締役社長
川崎健一郎
 KENICHIRO KAWASAKI
1976年、東京都生まれ。青山学院大学理工学部を卒業後、ベンチャーセーフネット(現・VSN)に入社。2003年、事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、2010年3月、VSNの代表取締役社長&CEOに就任。2012年、同社がアデコグループに入り、日本法人の取締役に就任。2014年には現職に就任。VSN代表取締役社長&CEOを兼任している。 アデコ 代表取締役社長 川崎健一郎  KENICHIRO KAWASAKI 1976年、東京都生まれ。青山学院大学理工学部を卒業後、ベンチャーセーフネット(現・VSN)に入社。2003年、事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、2010年3月、VSNの代表取締役社長&CEOに就任。2012年、同社がアデコグループに入り、日本法人の取締役に就任。2014年には現職に就任。VSN代表取締役社長&CEOを兼任している。

 私はこれまで人財サービス会社のトップとして、企業の労働現場におけるさまざまな問題に接してきたが、「働き方フロンティア」と題したこの連載で、新しい働き方を模索する企業の実情、国内外の識者の意見を見聞きしたことで、働き方改革を進めることの難しさにあらためて気付かされた。

 現在、「働き方改革は必要か」と問われて、「必要なし」と答える人は、経営者の中にも現場の社員の中にも恐らくほとんどいないだろう。働き方改革に関する意識そのものが企業のみならず社会全体に浸透していることは間違いない。ただし、この連載で再三問題として提起している通り、私は組織における働き方改革は、すべからく生産性の問題として進めるべきだと考えている。働く上での個人の心理的、あるいは肉体的負担を、企業としての成長やそれがもたらす顧客の便益を犠牲に軽減していくという方法ではなく、その負担を解消することで、事業に関わる人々の働く意欲を高め、それを生産性の向上につなげることが企業活動としての働き方改革だろう。

 しかし、働き方改革を成長の機会として取り組んでいる企業は非常に少ないとあらためて感じている。

そうした状況は、働き方改革が「労働時間の短縮」という課題にしばしば矮小化されていることに表れる。

 働き方改革と銘打たれた取り組みでは、労働時間の短縮がそのままKPI(主要業績評価指標)となっているケースが多く見受けられる。時間を短縮するという本来は手段であるべきものが目的化され、人も仕事も変わらずに、時間にのみ制約が設けられる。これでは一時的に残業時間は減るかもしれないが、誰にも知られることのないサービス残業が増える、あるいは、(改革初期の段階では顕在化しなくとも)商品、サービスの品質が落ち、業績に悪影響が出ることは避けられない。

 しかし、労働時間の短縮を生産性の問題として捉えた場合、その動き方は違ってくる。まずは生産性が向上しない理由は何かという問いが起点になり、そこから無理・無駄を探す取り組みが進んでいく。その結果として、商品やサービスの質を落とすことなく、労働時間が圧縮されるという形だ。

 時間短縮に限らず、テレワークの推進、育児や介護支援、女性の活躍推進といった取り組みの全てが、働く人々の意欲につながり、それが企業としての生産性につながってこその働き方改革である。そして、変化し続けるビジネス環境において、働き方も常に最適化されなければならない。つまり、働き方と生産性は不可分なものであり、この認識なくして、企業活動としての働き方改革に持続性は生まれないというのが私の意見である。