自動車をめぐる
社会的ニーズの変化

 コロナショックは、自動車に対する社会的な役割期待の変化を加速化させている。重要なことは、それまでゆっくりと進むだろうと考えられてきた変化が、一気にシフトアップしていることだ。

 その変化は3つに分けて考えると分かりやすい。一つ目がEVの普及だ。世界の自動車の規格は最大の販売市場(国)の文化に影響される。リーマンショックまでは車社会である米国を中心に、低燃費技術の開発が重視された。その点においてトヨタのハイブリッド技術が世界を席巻した。その後、経済成長に伴って中国の自動車販売が米国を上回った。中国は大気汚染などへの対応のためにEVを重視し、世界の自動車メーカーやIT企業などを巻き込んでEV開発が勢いづいている。EVの普及によって自動車の部品点数は50%程度減る。自動車はデジタル家電のような組み立て型の産業に移行するだろう。

 二つ目がCASEだ。中期的な時間軸で考えると、自動車には人工知能(AI)や画像処理などを行う多数の高機能センサーなどが搭載され、ネットワーク空間と常時接続して周囲のデータを収集・分析して自律的に走行するITデバイスとしての役割が備わると想定される。ネットワーク空間との接続性によって、自動車の走行や社内環境を支えるソフトウェアをアップデートし、より快適なカーライフが可能になるはずだ。それは従来の自動車にはない特徴である。

 それに加えて、SNSなどのプラットフォームの普及によって、自動車を個人が所有するのではなく、法人所有の下でシェアリングやサブスクリプションなどのサービス活用も拡大している。それによって、人々は特定の車種の利用権を独占するよりも、幅広い使用権を生活スタイルなどに応じて活用し、人生の選択肢を増やすことが可能になるだろう。

 つまり、CASEは自動車の常識を変える。これまでの発想で燃費の良い車種を製造し、販売することが自動車産業のビジネスモデルではなくなるといってよい。CASEを支える人材に関しても、従来のような機械工学系の人材に加え、AIなどのソフトウェア開発やビッグデータの分析などに専門性を持つ人材への需要が高まるだろう。

 三つ目として、10~20年のタームで考えると自動車は都市計画・都市空間に組み込まれていく可能性がある。つまり、自動車は移動の手段ではなく、移動するオフィス・住空間としての社会的役割を担うようになるだろう。トヨタがインドネシアをEV開発などの重要拠点に位置付けたのは、同国の都市計画(首都移転やインフラ整備など)を念頭に都市の一部として新しい自動車の役割の実現を目指しているからだ。

 そうした変化を先取りし、米テスラの株価が上昇している。同社の時価総額は、わが国全自動車メーカーの合計額を上回った。現時点でテスラが本当にCASEなどに対応できるかはわからず、通常であればテスラの時価総額がわが国自動車メーカーの合計を上回るとは考えづらい部分はある。重要なポイントは、変化への対応の可能性の有無(高低)だ。自動車産業が直面する変化にテスラがうまく対応するとの期待が高まっているということだろう。