8. 実施に向けて詳細な計画を作り込むとともに、人を動かす

 5.で説明したプロジェクトルームでの仕事と行動そのものは似ているが、今度は詳細設計と社外への仕事の発注などである。失敗や間違いが許されない仕事であり、皆で検討し、修正し、調整し合って、慎重に進めていかなければならない。これらの業務が果たしてオンラインでできるのかどうか。皆で寄ってたかって問題を発見し、改善し、再び出てくる問題をさらに発見し改善し……というサイクルが際限なく続く。

 他者に仕事を機械的に割り振り、類いまれなる洞察力と調整力を持つ敏腕プロジェクトマネジャーがいない限り、この工程をオンラインで実施するのはこれまた難しいかもしれない。

9. サービスや事業がスタートする

 サービスや事業が実際に開始すると、予期していなかった問題が起きる。これらへ迅速に対応していくことも、オンラインではまた難しいことだろう。

 スタートしてみると、改善しなければならない点が山のように発見され、ひとところに関係者が集まって、一つ一つ改善するしかないということも多い。これらは相当な熱量を持って遂行されなければならない。

 とまあ、このように書いてみると、知恵の集積、行動への熱量、問題への素早い対応などにおいて、リモートですべてを実施するのは、なかなか難しいように思われる。したがって、常に新しいものを生み出し、試し、価値を提供していくことを会社の使命として考えている会社であれば、使えるところではリモートワークを上手に使いながら、一方で対面の仕事を中心に考えていく「ハイブリッドな方法」をとるのが現段階においては妥当解であろう。

 とはいえ、ここで書いてきた内容は、あくまでリモートワークを前提としていない時代のイノベーションプロセスを、リモートワーク時に代替するときの困難をまとめたものである。

 私にはまだ見えていないが、おそらく、まったく違う文法のイノベーションプロセスが今後、生み出されてくるであろう。新しい酒は新しい革袋に盛ったほうがよいし、さらには新しい革袋に合わせた新しい酒が生まれてくるのだと思う。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)