茗渓会では、筑波大学および大学院の卒業生(OB・OG)と現役学生との交流の機会として「キャリアカフェ」を2019年から始めた。一般の企業説明会では通り一遍のことしか聞けないが、学生と共通点のある大学のOB・OGであれば、自身の学生時代の経験なども踏まえてさまざまなアドバイスができる。さらに、メンター的な立場から学生たちのキャリア相談に乗ることもできる。
昨年は大学構内のカフェで対面式での開催だったが、今年は新型コロナウイルスの感染拡大を受けてオンラインでの開催となった。キャリアカフェの企画立案者であり、今回のオンライン キャリアカフェの運営者である筑波大OBで採用アナリスト・コンサルタントの谷出正直氏は、今回の試みの目的をこう語る。
「コロナ禍で学内の就職説明会や企業説明会が中止になって就活生は情報が不足しており、人気企業ばかり選びがちになる。もっと幅広い業種・企業を知り、OB・OGの経験談を通して、自分のキャリアを考えるきっかけにしてほしい。今年はオンラインでの開催となったが、学生もOB・OGも気軽に参加できるため、参加者は増えている」
茗渓会のオンライン キャリアカフェは5日間で延べ372人の学生が参加。学生からは「就活というと、腰が重くて不安と恐怖しかなかったが、OB・OGの話を聞いてかなり前向きになれた」「同じ大学のOB・OGということで他の説明会や他大学のOB・OG訪問よりも突っ込んだ質問がしやすかった」など評価する声が多く、参加した学生の満足度も約97%と非常に高かった。
OB・OG訪問は採用活動の一環だが
選考プロセスとは分けている
オンラインOB・OG訪問を頼りにしているのは、学生ばかりではない。コロナ禍で企業説明会などのイベントが開催不可となる中、企業側も学生との接点を持つための貴重な機会としてオンラインOB・OG訪問を活用している。
転職サイト大手のビズリーチでは、16年10月からOB・OG訪問ネットワークサービス「ビズリーチ・キャンパス」を展開しており、19年9月からはオンラインOB・OG訪問機能の提供も開始した。このサービスの最大の売りは、大手企業・人気企業の公認OB・OG(基本は自分の大学のOB・OGに限る)に会えること。公認OB・OGを掲載する企業側はこのサービスの利用料を支払う必要があるが、学生は無料で利用できる。それ故に人気は高く、20年7月時点でサービスに登録している学生は約5万1000人、サービス利用企業は累計で200社を超える。
なぜ企業は、費用を負担してまでOB・OG訪問のためのツールを使うのか。サービスを利用する企業に話を聞いてみた。
三井物産では、OB・OG訪問を採用における重要な施策と位置付け、16年のサービス開始当初からビズリーチ・キャンパスを活用してきた。その理由を人事総務部人材開発室の和田佑介氏はこう語る。
「例年、内々定者に対してアンケートを取っているが、OB・OG訪問が入社の一番の決め手になっている」
同社では入社10年目以下の1110人に11〜20年目の有志を加えた1426人の社員をOB・OGとして公認しており、21年卒のOB・OG訪問件数は約5000件に上った。さらに21年卒の内定者の9割近くがOB・OG訪問をしていたことが分かった。OB・OG訪問が採用活動において欠かせない重要な施策であることを示している。
ただ、同社ではOB・OG訪問と採用のプロセスとは完全に分けているという。「OB・OG訪問はあくまで、正しく企業を理解してもらい、入社してからどうやって幸せに働いて活躍してもらうかというところがゴールだと考えている」(和田氏)からだ。
19年12月からビズリーチ・キャンパスを利用しているアサヒビールも、三井物産と同じく「OB・OG訪問は企業理解を深めてもらうことが目的で、採用活動とは分けて考えている」(人事総務部副課長・浅野健太氏)。
約150人の公認OB・OGが400人の21年卒の就活生から訪問を受け、結果的にそこから9人の内定者が出た。「OB・OG訪問を経た内定者は、当社への理解度が非常に深く、入社後のキャリアもしっかり描けている」(浅野氏)。
同社では、OB・OG訪問を入社後のミスマッチ解消にも役立てたいと考えている。