すべての新規事業は、ひとつの問いから始まっている

■新規事業/変革の場合:世の中の問題にフォーカスする

 以上の「問題解決/改善の場合」のアプローチとまったく異なるのが、新規事業や変革のケースです。

 新規事業の面談においては、資金、マーケティング、チーム、技術面など様々な話題が出てきます。自由度が高い分、話が散らかって何も決まらない、前に進まない、あるいは優先順位がつけにくくなる可能性があります。

 例えば、羊羹を作っている和菓子店の場合、新しい羊羹のマーケティング戦略は描きやすいかもしれませんが、新たにスイーツ店を始めようとすると、和菓子だけなのか洋菓子も作るのか、マーケットの状況はどうか、そもそも自社の強みは何かなど、大きさもレイヤーも違う話が一緒くたに出てきて紛糾する可能性があります。

 そんなときは、ひとつ絶対的なものがあると話がぶれにくくなります。すべての新規事業は、「自分たちは、世の中のどのような問題を解決しようとしているのか」という問いから始まっており、また、迷ったときに立ち返るべき原点となります。

 これは、ベンチャーキャピタルの人々が起業家に最初に聞く質問でもあります。古くはインテルやアップル、マイクロソフト、そしてアマゾン、グーグル、フェイスブック、ウーバーに至るまで、資金が必要な起業家たちはベンチャーキャピタルのもとに日参し、必死に自社への投資を呼びかけます。そのなかで、どの起業家に将来性があるかを見極めるには、技術的優位性や特許の数、競合やリスクを聞くより、「どんな問題を解決しようとしているのか。そして、その問題はどれほど大きいのか」を何より先に問うのです。

 例えば、「野菜嫌いを一瞬で治す薬」と「マカデミアナッツ嫌いを一瞬で治す薬」、どちらが有望そうでしょうか。新規事業とは、世の中にある問題を解決するためのもので、その問題が大きい(=それにより不便や不具合を感じている人が多い)ほど、大きな機会となるのです。

 ですから、すべての新規事業の出発点ともいえる、この問いを常に確認していれば、その後の議論もぶれにくくなるはずです。その際の聞き方を以下に挙げます。

 Who needs this product?
 →この製品は誰に必要とされているのか?(直接的に、誰が必要としているのかを聞く )
 What problem can we solve with this product?
 →この製品はどんな問題を解決するのか?
 What problems can this technology solve?
 →この技術はどんな問題を解決できるのか?
 Why would they need this product?
 →なぜこの商品を必要としているか?(できれば何らかのデータを含めた根拠を示す )
 What is the potential market size?
 →潜在市場の規模はどれくらいか?
 Who is the target market?
 →誰がマーケットのターゲットなのか?
 How big is the problem?
 →その問題はどれほど大きいのか?(問題の大きさを確認) 
 How big is the burden?
 →その負荷はどれほど大きいのか?(問題を負荷と言い換えて確認する) 
 How severe is the issue? →その問題はどれくらいシビアなのか?

 以上、第21回からここまで、「セールスの場合」「問題解決/改善の場合」「新規事業/変革の場合」のパターン別に、どうやって現状を把握していくかのポイントを整理しました。

 いくつか言い回しの例を紹介しましたが、相手から引き出す情報が多ければ多いほど、目的は達成しやすくなります。次回、箸休めのコラムをはさみ、第26回以降は、コミュニケーション上のコツを紹介します。

ロジックツリーは問題の整理にうってつけ
児玉教仁(こだま・のりひと)
イングリッシュブートキャンプ株式会社代表
ハーバード経営大学院 ジャパン・アドバイザリー・ボードメンバー
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー アドバイザー
静岡県出身。静岡県立清水東高等学校を卒業後、1年半アルバイトで学費を稼ぎ渡米。ウィリアム・アンド・メアリー大学を経済学・政治学のダブル専攻で卒業後は、シアトルでヘリコプターの免許を取得後帰国。1997年4月三菱商事株式会社入社。鉄鋼輸出部門に配属され様々な海外プロジェクトに携わる。2004年より、ハーバード経営大学院に留学。2006年同校よりMBA(経営学修士)を取得。三菱商事に帰任後は、米国に拠点を持つ子会社を立ち上げ代表取締役として経営。2011年同社を退社後、グローバル・リーダーの育成を担うグローバル・アストロラインズ社を立ち上げる。2012年よりイングリッシュブートキャンプを主宰。イングリッシュブートキャンプ社代表も務めるかたわら、大手総合商社各社をはじめ、全日本空輸、ダイキン等、様々な国際企業でグローバル・リーダー育成の講師としてプログラムの開発・自らも登壇している。